ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

狭い福祉から広い福祉へ

同志社大教授 上野谷 加代子


 仮に「狭い福祉」と「広い福祉」とがあるとしたら、多くの自治体で取り組んでいる行政福祉は狭い福祉である。

 第2次大戦後の法整備に伴い、お上の福祉に慣れてしまった市民は、行政福祉を「ふくし」と思い込んできた。介護保険時代に入り、民間事業所の参入やNPO法人の活躍などで、その傾向は少し変化したとはいえ、いまだに「障害者福祉」、「老人(高齢者)福祉」、「児童福祉」のように、いわゆる法制度に基づく、行政所管別の縦割り福祉でサービスが提供されている。

 また、社会福祉の専門職養成の大学や養成施設においても、縦割り研究・教育から脱却しきれていない。日本の福祉のこれからを案じていた時、「広い福祉」=本物の福祉をめざそうと頑張って実践している方々に出会った。30周年を迎えた東小地区福祉会(大阪府・箕面市)のメンバーである。

 開口一番、「先生の講演を聞いて、独自の福祉活動を実施してきた」、「活動によって生き方が変わった」等。うれしさ半分、責任半分。福祉会の使命は、福祉コミュニティづくりと地域福祉の推進であり、京都府下の市町村とそう変わらない。しかし、部会活動に特徴がある。部会は、1)ボランティア 2)小地域ネットワーク 3)健康運動 4)文化(娯楽) 5)地域安全 6)生活部会 7)学習である。実はこの7部会は、人間が持つ生活課題に対応している。仕事がしたい(役に立ちたい)、愛情を得たい、健康でありたい、文化娯楽を楽しみたい、安全(安心)に暮らしたい、生活の安定を得たい、学びたい、という7つの基本的要求を満たせるよう側面的に支援する活動として、地域活動を位置づけている。活動拠点を小学校門横に持ち、部会ごとにさまざまな活動を住民主体で展開し、元気な地域をつくっている。市民がつくる福祉は広い。生活丸ごと応援団の東小地区福祉会の今後に期待したい。新しい公共はこんなところから生まれるのかもしれない。


うえのや かよこ氏 同志社大学大学院社会学研究科教授。
1949年生まれ。大阪市立大学大学院修士課程社会福祉学専攻修了。研究テーマは地域福祉方法論。日本福祉教育・ボランティア学習学会会長、日本地域福祉学会副会長。