ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

今日のご飯これにしよ

同志社大教授 上野谷 加代子


 今年も「今日のご飯これにしよ」という呼びかけで、上野谷ゼミ・イベントが始まった。障害のある人が作ったパン・クッキーなどを同志社大学キャンパス(京田辺、今出川、新町)で、学生が障害者と一緒に販売する企画である。早いもので5年目を迎え、クリスマスイベントとして定着しつつある。この企画は「障害者の社会参加や就労の場を広げたい」という一人の女子学生の願いから始まった。

 その学生は、中学から大学院までずっと、同志社の自由で創造的な学びに親しむと同時に、社会福祉学の開拓性やボランタリズムを発揮していく実践力を身につけた。彼女のリーダーシップのもとに、ゼミナール仲間たちの真摯な願いは、教職員の理解を得、販売場所の拡充や販売期間の延長、そして年々、参加施設の輪が広がり、今年は9施設・団体の参加、交流が実現した。学生たちは、毎年悩み、議論し続ける。一人よがりにならないか、偽善ではないか、当事者たちはどう思っているのか、などをめぐって。

 最後は「当事者たちに聞こう」といって、施設・団体を訪問する。そこでの交流・交渉を通し納得し実施する。だから皆、最高の笑顔で障害者とともに、販売を継続できるのであろう。学内には、初めて、障害者といわれている人に出会い話しかける学生もいる。1週間、3キャンパスでの取り組みは、教員としていささか心配であるが、学生たちは大いに楽しみ、障害のある人の個性に触れ交流を深めている。

 おいしいものは誰が作ってもおいしいし、良いものはよい。障害がある方々が、心をこめて作り、販売する姿に自然に応答している学生たちをみると、福祉教育・人権教育は教室内だけでなく、交流の場の創出が必要だと反省させられる。このパン企画が、イベントでなく学内常設店となることを夢見ていた女子学生は、現在、社会福祉協議会で社会福祉士として元気に働いている。


うえのや かよこ氏 
同志社大学大学院社会学研究科教授。
1949年生まれ。大阪市立大学大学院修士課程社会福祉学専攻修了。研究テーマは地域福祉方法論。日本福祉教育・ボランティア学習学会会長、日本地域福祉学会副会長。