ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

大切にしていること


ヴォーリズ記念病院
ホスピス長 細井 順


 「先生が大切にしていることはどんなことですか」と、ホスピス緩和ケアについて話したあとに質問を受けた。「ウーン」と考え込んで答えに窮した。日々の心がけ、あるいは頭の中身を問われているようだ。私自身の核心に迫る質問のようでもある。

 すこし間をおいて、「誤解をおそれないで言えば、物事を自分ひとりで決めようとはしすぎないこと」と答えた。ホスピスケアの柱の一つにチーム医療がある。ホスピスでは患者さんの苦悩を一人のスタッフで解決しようとはせず、スタッフ全員で取り組んでいこうという精神を表している。一人で頑張ったところで患者さんの一部しか見ることができない。スタッフ個々の力を結集することが奥行きのあるケアにつながる。そのためにはどうすればいいかを大切にしている。先ほどの答えでは私自身も十分に言い尽くせたとは思わない。あらためて自分の大切にしていることを考えてみた。

 ホスピスで出会う患者さんは、確かに患者さんではあるが私と同じ弱さを抱えるひとりの人間だと思っている。誰もが同じだと考えている。患者さんなら、医師としてある一つの道筋をつけることが求められるであろう。しかし、同じ弱さを抱えた人間同士と思うならば、道筋をつけることもあれば共に道に迷うことがあってもいいのではないだろうか。迷いつつ共に道しるべを探す存在であればいい。実際、何がよいケアなのか決められないで悩むことも多い。その中で私たちが患者さんに癒やしとか安楽を提供できた時には、逆に患者さんから私たちもまた同じような癒やしや安楽を受けている。患者さんや家族を通して、あるいはスタッフを通してケアされていることを感じるのがホスピスである。自分一人で決めないでチームの力がうまく機能する時を待つ。他者を生かして、他者に生かされる。お互いさまの関係が生まれる。

 年の始めに、自分が大切にしていることを意識してみてはいかがだろう。


ほそい じゅん氏 1951年生まれ。大阪医科大卒業。自治医科大外科講師を歴任後、96年淀川キリスト教病院ホスピス医長。2004年自らも腎がんを経験した。06年から現職。患者と哀(かな)しみを共にするケアを実践している。