ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

喜びの旅立ちを願う

同志社大教授 上野谷 加代子


 「旅」とは、今まで住んでいた居所から新しい住まいに移ることを意味したらしいが、今日では、旅行や新しい環境に移ることの意味合いで用いられることが多いように思う。たとえば、結婚や卒業、就職などを喜び、祝う場合に用いられる。逆に悲しいお別れに用いたりもする。

 そのような旅に出る「旅立ち」にもいろいろある。悲しい旅立ち、楽しい旅立ち、喜びあふれる旅立ち、心機一転、チャレンジの旅立ちなど。いずれも、自分自身を未知なる環境へ移す中で、新しい出会いや自分を生かす機会に巡り合うかもしれない。旅立ちには期待を込めた思いや意気込みを感じる。

 旅立ちの中でも、3月、といえば卒業(園)式である。私は入学式より卒業式のほうが好きだ。仕事人間の私は、子どもの入学・卒業式はほとんど臨席していないが、30数年来、大学教員として毎年喜びの旅立ちを味わっている。

 正直、学年によって喜びの中身は異なる。成績の良かった学年、就職率、国家試験の合格率がよかった学年など優秀な学生たちを送り出すときは、教師冥利(みょうり)に尽きる。しかし、手のかかった学生、不条理な世の中で前向きに自他を変えようと努力し、挫折した学生、お人好しでいつも損する学生などがメンバーとしている学年ほどかわいいし、卒業式では、母親のような気持ちになり、ジーンと胸が熱くなり涙ぐむ。最近の年中行事となっている。今日(20日)から3日間、同志社大学の卒業式だ。学部ごとに丁寧に実施される。今日は社会学部の卒業式だ。さて、今年はどうなるか。今から涙をこらえ、笑いのみでと心している。

 東日本大震災での恐怖、悲しみからの旅立ちは、いつになるのであろうか。被災された方々が可能な限り、喜びの旅立ちへ向かえるよう、京都から心をこめた持続的な穏やかな支援を、と呼びかけたい。

 暖流(コラム)も2年間、楽しく担当させていただいた。こちらも笑顔で卒業だ。感謝。


うえのや かよこ氏 
同志社大学大学院社会学研究科教授。
1949年生まれ。大阪市立大学大学院修士課程社会福祉学専攻修了。研究テーマは地域福祉方法論。日本福祉教育・ボランティア学習学会会長、日本地域福祉学会副会長。