ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

信頼の絆




さわやか福祉財団理事長
堀田 力


 「被災地に温かさを送る募金デース」

 東京の朝の通勤客にマイクで呼びかける。

 中年の紳士が立ち止まって、募金箱に小銭を1枚、2枚。

 「昼のそば代なんだよなぁ」と言いながら、やがて「エエィ」とばかり、小銭入れを逆さにして全部入れてくれる。

 ほとんど素顔の地味な若い女性がいったん通り過ぎ、考え込みながら引き返して来たと思ったら、きっちり三つに折りたたんだ一万円札をポンと入れ、「領収証をお渡しします」と言うこちらの声に応えず、さっと行ってしまう。

 「有り金がこれだけなんだよ」とコインを入れて立ち去り、しばらくして現れて、「会社から取って来たよ」と千円札を何枚か入れてくれるサラリーマン。

 ホームレスとおぼしき年配の男性も、小銭を全部はたいてくれる。

 「東京のサラリーマンも、けっこうボランティアの心があるじゃないの」と、これは、私のうれしい発見。

 昨年の6月1日、新橋駅前をスタートして南周りに各駅2週間、サラリーマンのボランティア活動を訴える辻立ちを毎朝1時間。9カ月と11日、田端駅の段階で東日本大震災。

 さっそく義援金を募ったところ、ボランティア活動を訴えていた時は、ほとんど無視されていたのに、義援金となると、積極的に熱い思いを見せてくれる。

 若者の反応がよく、女性の反応がよい。日本の若者、日本の女性は、特に心が美しいのである。

 私たちは、その日寄付されたお金はその日のうちに、わがさわやか福祉財団のお金を同額加えて、被災地で救援活動をしているNPOの仲間に振り込んでいる。彼ら、彼女らは、それをガスボンベその他の必要な物資に代えて、被災者にお届けしている。それを毎日、ボードに記して報告しながらの募金活動である。

 善意は、信頼の絆を通じて伝わって行く。


ほった つとむ氏 1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。