京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●コラム「暖流」
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。 お天道様がみているから
東日本大震災から一カ月たった。一連の大災害で日本中の時が凍ったかに思われ、春の輝きも例年とはどこか違う。被災された方々のつらさやかなしさを思うと、声かける言葉が見つからない。人間は家族と一緒にそれぞれの人生を物語として生きていく。かなりの長編になるかもしれないが、それぞれの復興の物語をつづってほしいと願う。
「あー、だるくて、えらくてたまらない。こんな苦しい思いはしたくない。もう十分に生きたから悔いはない。はやく終わらせてほしい」。このような言葉をホスピスでは耳にする。将来を見通せない絶望感から発せられる言葉には筆舌には尽くせない深い嘆きが込められている。そんな時、あえてこんな言葉をかける。「しんどいけど、みんなでちゃんとみているから大丈夫よ。思った通りではないかもしれないけれど何とかなるから。今日までも何とかやってこれたでしょ。お天道様は昨日も今日も明日もみんなのことをちゃーんとみていてくれるから」。 被災地では多くの援助の手が差し伸べられている。海外からも救援隊が来ている。世界中から「がんばろう日本」とメッセージが寄せられている。傷つき、立ち上がることのできない被災した人たちに代わって、泥にまみれて手を動かす人たちがいる。泥の中から思い出のアルバムを拾い上げるのも、それを持ち主に返すのも人の手である。人と人とが手を結んで復興への道が始まっている。 人生を振り返ると、自分一人で頑張ったと思う場面でも、実はお天道様(偶然という姿で現れることもある)や誰かに助けられていた。無縁社会と言われる時代になってしまったが、この分業化、スピード化した時代を生きていくにはお互いに手を結ぶことが必須である。時が凍ったような震災の場でも時を解かすのはやはり人の手なのだ。人はひとりでは生きていけないことに思い至る。自分の領域を一歩踏み出すことで人と手を結ぶことができる。困難に出会うとき、それを乗り越えるのは信頼して手を結ぶことではないだろうか。 ほそい じゅん氏 1951年生まれ。大阪医科大卒業。自治医科大外科講師を歴任後、96年淀川キリスト教病院ホスピス医長。2004年自らも腎がんを経験した。06年から現職。患者と哀(かな)しみを共にするケアを実践している。
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