ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

遺族の悩みを軽くする


ヴォーリズ記念病院
ホスピス長 細井 順


 ある市民団体が主催する遺族会で、がんで大切な人を失った人たちの悩みを聞かせていただいた。子供を亡くした人、夫を亡くした人、妻を亡くした人、親、兄弟などが次々とがんに斃(たお)れて自分もがんになるのではと恐れている人、さまざまな形の深い悩みを抱えた人たちが集っていた。失った悲しさや後悔、日々の寂しさ、無力感などが胸の内に渦巻いているようだ。人生を分かち合ってきた人を亡くし、新しい生活スタイルを見つけかねて心身に重荷をかかえている様子が見てとれた。そんな苦しさのどん底でやり場のない気持ちをいだいている人たちがお互いに語り合うことは大きな助けになる。このような遺族の集まりに参加できる方たちには是非ともお薦めしたい。

 私たちのホスピスでは、患者さんが旅立った後、「お別れの時」といって家族とホスピススタッフでご遺体を囲み、思い出を語る時間を持っている。そこでは、患者さんが家族ひとりひとりに、あるいは私たちスタッフに遺(のこ)してくれたことを思い起こしてみる。また、死別によって生じた断絶は計り知れないものであるが、これからはいろいろな場面で故人が姿を変えて眼前に現れて必ず共に生き続け、これまでと同じように支えになってくれることを話す。そう感じることで苦境を乗り越えていけると言われている。

 遺影に向かって愚痴をこぼし、助けを乞い、仏壇にお供えをして毎日を過ごすことでいいのではないだろうか。見慣れた姿が見えないと寂しくて仕方ないかもしれないが、これも一緒に生きることのひとつの形なのかもしれない。生前に培った絆は大きな力になる。悩みながらもどうにか生活を続けていくことが大切なことなのだと思う。新しい生活スタイルは現在進行形で築かれる。今日、明日、明後日と生きていくなかで故人が心の中に占める位置も変わっていく。

 折々に姿を見せる故人に語りかけながら共に生きていこう。しょせん人はひとりでは生きて行けない存在なのだから。


ほそい じゅん氏 1951年生まれ。大阪医科大卒業。自治医科大外科講師を歴任後、96年淀川キリスト教病院ホスピス医長。2004年自らも腎がんを経験した。06年から現職。患者と哀(かな)しみを共にするケアを実践している。