ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

女性の声が届かない




さわやか福祉財団理事長
堀田 力



 東北被災地の復興を応援する活動を続けてきて、わかってきたことがある。

 どうも、女性の声が行政に届きにくいのである。

 バスツアーにお招きした被災者たちに、小グループに分かれて、どんな町に復興したいのか話し合ってもらう。

 すると、女性だけのグループの話題は、暮らしに集中する。

 「買い物が不便じゃやっていけないよ」

 どんなお店をどこにつくってもらうのか、少し遠くへの買い物の足をどうするか、そういった話から、町の交通網のあり方へと議論が進む。

 漁師のおかみさんから

「オンデマンドバスにしてもらえんかね。町の計画にはないけど」などという発言が出て、私たちもアッと思う。みごとな知恵が出てくるのである。

 一方、男性が多いグループでは、発言が理念や考え方など、抽象的になりがちである。こちらで具体的な話題に誘導すると、出てくるのは産業のあり方、JR線を復旧する場所の駅周辺のあり方など。福祉の方に誘導すると、病院、診療所の希望は出るが、施設となると困惑気味。

 「いざとなるとどこかへ入れてもらえるのかな」と頼りない。

 被災地の自治体はそれぞれに復興基本計画案を固めてきており、多くは、この暮れには地方議会を通す予定にしている。

 これを基礎にして町づくりが具体化していくから、私たちは住民の声に沿う計画になるよう後押ししているのだが、医療、保健、福祉の項になると、どうもしっくり来ない計画案が多い。

 自治体も、それぞれに住民説明会や懇談会を開催しているのだが、そこで述べられる意見が、男性に偏ったものになっているらしい。だから、復興計画も、福祉などについては、震災以前から策定されている福祉計画の引き写しで、行政の縦割りの項目が並ぶ、生活の夢がない記述になってしまう。

 本物の生活の声と夢を行政に届けるため、私たちはまだまだ応援を続けなければならない。


ほった つとむ氏 1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。