ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

良薬口に苦し


真宗大谷派僧侶
川村 妙慶



 私は月に何度か鍼灸(しんきゅう)に通っています。はりが身体に入るわけで「痛い」と思っていたのですが、全くそうではありません。主治医の楽しいおしゃべりに気をとられ、いつのまにか終わっています(笑)。

 さて、この鍼灸(しんきゅう)は中国から伝わってきました。しかし、日本人ははりの痛みに比較的弱いそうで「痛みを和らげる効果はわかるが、はりが痛いのは嫌だ」とおっしゃるとか。そこで、細く改良されたそうです。

 ところが、中国では「鍼灸は痛くて当たり前」という認識で、むしろ「痛い方が好まれる」そうです。たしかに「良薬口に苦し」という言葉があるように、薬は苦くてこそ効くということでしょう。

 では、私たちの人生を考えるとどうでしょうか。お釈迦さまは一切皆苦(すべてのものは苦しみである)とおっしゃいました。「夢も希望も持てなくなるのでは」とお叱りを受けそうですが、苦は避けては通れないことなのです。

 四苦八苦するといいますね。まず、生まれてきたということは、老います。生きると病にもなります。そして死は必ずおとずれるのです。これが四苦です。

 さらに、どんなに愛していても別れる時が来る。(愛別離苦=あいべつりく=)、どんなにいやな人でも顔をあわせなければならない(怨憎会苦=おんぞうえく=)、求めても思い通りにならない(求不得苦=ぐふとくく=)、人としての肉体・意識があるために生まれる苦しみ(五蘊盛苦=ごうんじうく=)の四つを、生老病死の「四苦」に加え「八苦」。合わせて「四苦八苦」といいます。

 夏目漱石も「草枕」の冒頭で「とかくに人の世は住みにくい」と書いているように、いろんな心を持った人が生活をしているこの娑婆(しゃば)世界を避けては通れないのです。

 さて、私たちがこれからの人生を有意義に過ごせるのは、この苦を経験するからなのですよ。痛い思いをしてこそ、人は強くもたくましくもなれるのです。はじめから甘い生活はありません。

 「良薬口に苦し」。良い人生を送るには苦いことも経験させていただきましょう。


かわむら みょうけい氏
アナウンサー、正念寺(上京区)坊守。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。46歳。