ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

すごいおじさん




さわやか福祉財団理事長
堀田 力



 すごい人がいる。

 今まで人からただでかき集めたお金が950億円。

 詐欺師ではない。その正反対、最高の人格者。彼を信頼してボランティア活動をする人が5万人、寄付をした無数の人の善意が積もり積もって950億円。すべて日本や世界の遺児たちのために使われている。

 ご存じ、あしなが育英会の総元締め、玉井義臣さんである。

 どんな立派な姿、形かと思った人は、会って驚くだろう。感じた通り言わせてもらえば、ただのおじさんである。誰に対しても偉ぶったところはまったくなく、人懐っこい目をして、のんびりした話し方をする。

 喜寿の祝いのパーティでは、あしなが育英会が設置・運営する寺子屋で学ぶウガンダの子どもたちが、パソコンの画面の向こうに群がって、いっせいに「タマチャーン」と叫ぶ。喜寿のタマちゃんが大声で「ありがとう!」と日本語で叫ぶと、意味が分かるのか分からないのか、男の子も女の子も、大喜び。顔を見ただけで、うれしくてならないのだろう。

 車椅子で飛行機に乗り、ウガンダへ乗り込んだのは知っているが、いつの間に子どもたちとこんなに仲良しになったのだろう。

 お祝いのパーティには世界のいろいろな国から、肌の色が違う少年少女たちが来ていて、純真そのものの目の輝きで彼を取り囲む。彼らが何を言ってもタマちゃんは大声で、「ありがとう」。その一言で、気持ちが通じ合うのが感じ取れる。

 これが、タマちゃんの特技。そして、お人柄。

 40年以上、この人柄と遺児への涙もろい情でお金を集め、虹の家を建てて彼らの居場所をつくり、奨学金を出してきた。

 誰にも出来ないことなのに、タマちゃんは普通におじさんなのである。

 しかし私は知っている。人を見分ける嗅覚は、実に鋭い。タマちゃんが自然に避ける人がいて、その人の心は美しくないのである。

 だから、タマちゃんの周りには、善い人しかいない。

 このおじさんは、ただ者ではない、すごい人なのである。


ほった つとむ氏 1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。