ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

手料理を始めよう!

まちの学び舎ハルハウス代表
丹羽 國子



 長年、動植物が主人公の広大な森を管理するC・W・ニコル・アファンの森財団で春から秋の毎月、関東の養護施設や視覚障害の子たちや、昨年は被災家族を招く2〜3日の合宿に関わっている。

 視覚障害の子たちは、あこがれの2大学の入学条件に“自炊ができる事”があるので、視覚に代わる五感を働かせて自炊ができるよう、家庭での手伝い・買い物・調理の習熟に一生懸命である。

 合宿初日の夕食は、グループごとに森の中で思い切り遊んで採取した沢ガニや山菜類を洗い、お互いに向き合ってボウルに小麦粉と水を入れ、こねて団子を作る。ブロックかまどに火をおこし、大鍋に豚肉を加えてすいとんを作り、自然の恵みに感謝してにぎやかな晩餐(ばんさん)が始まる。夜の森の散歩は、フクロウの鳴き声や蛍の光や枯れ葉の上に寝て月や星の降るような光を浴びて森の声を聴く。

 私自身も、70歳から、まちの縁側ボランティア活動に加えて“健康は朝食から”と年中無休の京雑炊店の“ばっちゃ”に転身した。

 毎朝4時に起きて小まめに動き、手と頭を使って調理方法を工夫しながら、お客様のご満足は?とお帰りを見送る。“料理は感性と科学の結晶である”としみじみ実感する。

 たとえば先輩からユズを贈られ、大鍋でジャムを作る場合、種子にペクチン(ゲル化剤の役目あり)が含まれているので茹(ゆ)でて濾(こ)す。皮は千切りにし重曹を入れ茹でてろ過し、適量を混ぜ合わせて煮詰めると美味なジャムになる。残り汁は濾してグラニュー糖を加えてユズネードにし、来訪者に振る舞う。

 4月から家を離れた新入生や転勤人は、健康第一のため、手料理の朝ご飯で自律神経のスイッチを切り替えてバランスを整え、脳力を高めて勉学や出勤をして下さいますように。

 そして義務教育期間中、すべての子に毎年10日間ほど“自然の学校”で動植物と出会って自炊実習ができれば料理が好きになり、自分は将来、何で暮らしを立てていくかを知る機会を得る子が増えるに違いない。


にわ・くにこ氏 
看護師、ケアマネジャーを経て2009年まで佛教大教授(社会福祉方法論)名古屋市出身。72歳。