京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●コラム「暖流」
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。 福島での精神障がい者支援
ACT―K主宰・精神科医 高木俊介
「私たちにどこに逃げろというの! 避難所では精神障がい者だ、放射能がついていると言われて追い出されて・・・」電話の向こうで悲痛な叫びがあがる。
震災後、1週間たってようやく連絡がついた南相馬市にある精神障がい者福祉施設の所長に、私は一刻も早い避難を主張した。メルトダウンを確信していたからだ。しかし、返ってきたのは、行き場のない精神障がい者と、その支援者たちの切羽詰まった声だった。 精神障がい者の多くは、情報から隔絶され、環境の変化にも弱い災害弱者である。同時に、彼らの援助に携わる人たちは、その援助対象者を置き去りにして避難することができない。そうして、対人援助職に多い若い女性やその家族の子どもたちを含めて、多くの人々が、今も不安を持ちながら、放射能に激しく汚染された地にとどまっている。 放射能被害は確率的にもたらされるので、彼らの将来の健康被害については誰にも断言できない。しかし、福島の人々は、今の生活をとるのか、将来の健康をとるのかという、選択不可能な決断を迫られている。とどまるという決断にも、避難という決断にも、最大限の支援がなされるべきだ。 低線量内部被ばくの危険性も、国やマスコミがそれを否定し隠蔽(いんぺい)する欺瞞(ぎまん)も、私は明らかだと考えている。だから、福島にとどまる人々を支援することが、将来の健康被害に加担することになるのではないかという戸惑いがつきまとう。それでも、福島の人々には、待ったなしの支援が必要だ。 原発震災は、福島の医療と福祉の基盤を一挙に奪った。それに対して、相馬市・南相馬市に全国の精神科医が応援に駆けつけた。今年になって、現地の若い人たちの力によって、新しいクリニックが設立された。 私のクリニックでも、福島の精神保健関係者が在宅訪問支援を学ぶための研修を受け入れてきた。その交流の中から、今夏、福島の子供らの保養キャンプを、八丈島で行う計画が生まれた。この連載を機会として、これらの福島支援について報告し、読者の応援をお願いしていきたいと思う。 たかぎ・しゅんすけ氏 2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ、54歳。
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