京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●コラム「暖流」
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。 アウトリーチ
さわやか福祉財団理事長 堀田 力
ドイツ人の福祉家を観光案内していたら「あの青いビニールシートの小屋にいるのはホームレスですね。日本ではあの人たちをあのまま放っておくのですか」と聞かれ、答えに困った。
ホームレスの支援を一生懸命やっているNPOの人たちがいる。まだ若い人たちが多い。 相談に来るホームレスの人たちは、いくつもの問題を抱えている。お金がない、住居も職も家族もない、病気はいくつもあって、認知症気味。 つきそって、まず生活保護の申請。病院に連れて行っていくつかの科で受診。市が用意している住居に入るまでの世話は、並大抵のものではない。行政も民間もしばしば迷惑顔で、何とか突き放そうとする。そこをねばるボランティアの若者は、時々考えるという。 「自分は、いったい何故こんなことをやっているのだろうか」 当のホームレス本人が、やる気がないのがいちばんこたえるそうな。 日本の福祉の学者たちと話していると「これからの福祉にはアウトリーチが必要だ」という。 アウトリーチというのは当事者からの申請を待っているのではなくて、こちらから出かけていって探し出してくるということだ。 確かに、もっと早く接触して福祉の対象にしていれば救えたのに、本人が引きこもってしまって誰も気付かなかったものだから衰弱死してしまったというケースが目に付く。そういうケースが報道されると「早い時期からSOSのサインが出ていたのに見過ごした」という非難の声が出る。 まことにそのとおりで、地域の絆があれば、大ていのケースは救えたと思う。 では、ホームレスはどうなのか。路上や河原で寝ているということ自体が、明白なSOSのサインであろう。 そこでNPOの若者たちが善意で救おうとしているのに、多くの行政は迷惑顔である。言い分はあるのだろうが、これではアウトリーチどころの話ではない。 せめてNPOが嘆かなくてすむような対応をしてほしいのである。 ほった つとむ氏 1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。
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