ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

コイが泳いでいる

まちの学び舎ハルハウス代表
丹羽 國子



 まちの縁側クニハウス(名古屋市)の裏庭に小さな池がある。コイ・金魚・メダカ・ドジョウ等がすみ分けて子孫を残している。

 幼児たちが訪れると「コイが泳いでいるよ。見る?」と裏庭へ案内する。「どこ?」と空を仰いでコイを探す。空にコイのぼりが泳いでいる?と思っている様子である。「本物のコイが池のなかで泳いでいるよ」と言うと「え!本当?」。とんきょうな声を出して池の周りに行き、コイや金魚やメダカを見て感激する。

 ときどき、保育所や託児所の保育士さんが「お邪魔します。池の魚を見せてください」と訪れる。子たちは大声を出してはしゃぎ、満面の笑みで帰っていく。

 クニハウスの休みの日や朝・夕には、玄関前の縁側で小・中学生が友人たちと雑談に花を咲かせる。中学生が「今日、カエルを初めて見た」ことが夕飯の話題になった?と翌日、親が伝えに来てくださる。

 昨年は、1メートルほどの羽を持つアオサギのつがいがコイやメダカを食べに来ていた。50年前に作られた池は段差が設けられて冬季、氷点下になっても魚が越冬できる深さになっている。

 そのため、アオサギが池の中でくちばしを入れても届かないので、魚が深い所へ隠れれば助かるし、逃げ場を知らない魚が食べられる。つがいのサギも食べる魚が潜ったためか10日間ほどで来なくなった。そのせいか昨夏の魚たちの子育ては盛んであった。

 夏の池は水道代がかさむので、日本財団の助成を受けて屋上の雨水を池に流す工事の完成で節水・省エネができた。

 昔は、都市のなかにもため池や神社仏閣に放生池がいたる所に在って、子たちの遊び場であったし、夏冬の温度調節をしていた。

 人間中心の車社会に変化して、“危険防止” と都会ほど池が埋め立てられ周りの樹木が消えて駐車場になり、ヒートアイランド化の一因になっている。

 都会の中に「放生池」のような自然の樹木に囲まれた池に魚や亀や蛇やカエルをよみがえらせて、人間が生き物と共生きで親しむ環境づくりが求められている。


にわ・くにこ氏 
看護師、ケアマネジャーを経て2009年まで佛教大教授(社会福祉方法論)名古屋市出身。72歳。