ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

新自由主義社会と福祉

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介


 福祉が壊されていく。今の日本の話だ。

 福祉は、社会のセーフティーネットである。現代社会は、個々の核家族を地域的相互扶助の共同体から切り離して、市場に開放することで成り立っている。いったん社会的な困難に見舞われると、孤立した家族の力は弱い。家族内の愛情の強弱にはかかわりなく、これは、近代以降の社会の宿命なのだ。だから、家族が困難に遭遇した時、たとえば失職したり障がいを得た時、介護が必要となった時には、社会の支援が必要となる。そうでなければ、現代社会は維持できない。

 ところが、資本が極大化することが人類の幸せだと主張する新自由主義、市場万能主義が幅をきかすようになったこの20年、社会的困難による挫折は、個人の責任だとされるようになった。そして、その負担は力弱い家族に負わされる。老人介護の社会化をうたった介護保険制度ですら、まだまだ家族による介護を前提としている。

 つい先日、大阪維新の会大阪市議団が「家庭教育支援条例」案を議会に上程しようとして、内容を知った市民や専門家の批判を受けて白紙撤回されるということがあった。なかでも、発達障害について「愛情不足が要因」「伝統的子育てによって予防、防止できる」など、障がい者とその家族への理解と配慮を欠いた条文が問題となった。発達障害が現在大きな問題となっている原因の一つに、個性の違いを受け入れることができない現代社会の余裕のなさがある。それをあたかも個人と家族の責任にして、伝統的子育てによる解決を家族に求めているのは、新自由主義的考え方にもとづくものである。

 批判を受けて橋下市長・維新の会代表も「母親に、それはあなたの愛情欠如ですと宣言するのに等しい」と、自分が代表をつとめる団体が出したこの条例案を批判した。

 それにしても、長・代表でありながら、「部下」の所業を公に批判してすます、このような品格を欠くやりくちが人気を集める昨今の風潮は、これも新自由主義社会の故であろうか。


たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ、54歳。