ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

新生大槌




さわやか福祉財団理事長
堀田 力



 「問題は男よ」というのが神戸のNPOのリーダー中村順子さんの意見であった。

 中村さんたち近畿のさわやかインストラクターは、私たちさわやか福祉財団とネットワークを組んで、昨年9月から被災地岩手県大槌町の復興支援に取り組んでいる。

 阪神淡路大震災の後じっくりと生活支援のボランティア活動を続けた中村さんたちは、仮設住宅に入った中年男性たちが、自殺したり孤独死したりするのにいたたまれない思いをさせられてきた。「さぁ、さわやかパラソルに集まって、つらい気持ちを分かちあいましょう」と呼びかけても、中年男性たちは出てきてくれない。失った事業をどう取り戻すかの一点にとらわれ、出口のない悩みに押しつぶされて意欲を失っていく。

 「ちょっと出てきて、つらいよとひとこと言ってくれれば、『そんなん何とかなるやん』と励ませるのに」と、悔しいのである。

 今回の東日本大震災でも同じ現象が起こっている。それで、さわやかインストラクターたちが素早く始めたのが、仮設での男の調理教室。

 料理を習う男たちを名付けて「イケメンクラブ」。これを試食して「おいしい」とほめる女性たちを集めて「メンクイクラブ」。ほめられて元気になるのは子どもも大人も、女も男も一緒。

 そのようにして絆をつくり、この5月の末には、彼らを宿泊勉強会に引っ張り出した。2日間みっしり、7時間半の大討議は、自分たちの移り住む新しい町をどのような町にするかというテーマ。診療所もほしい、ここにはATMを置こう、施設は老人ホームとデイケアと子ども園と地域の寄り合い所を一緒にしちゃおうなどと、アイデアいっぱいで、男性も女性も身を乗り出して地図に書き込んでいく。

 この勉強会がきっかけで、今後も住民の意見をまとめて提言する住民組織をつくろうという声が自然に起こり、立ち上がった組織の名前が「新生大槌」。

 さぁ前を向いて進もう!


ほった つとむ氏
1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。