ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

成熟した社会への第一歩
精神障がい者「保護者」制度の撤廃を祝う

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介


 厚生労働省の「新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム」(以下、検討チーム)が、2年に及ぶ議論を終えた。

 日本は、先進国の中で突出した「精神病院大国」だ。1950年代からの高度成長時代に、「世話のかかる障がい者」を施設や病院に強制的に収容した経済優先の結果である。

 このために、私たちの社会は、精神障がい者と共に生きるための知恵や作法を失った。そして生まれたのが、高齢化と共に急増する認知症のお年寄りが、地域から離れた精神病院に隔離収容されていく現実と、さまざまな人生の困難からうつ病となった人たちが、追い詰められて自ら命を絶つような冷たい社会だ。

 成熟した社会ならば、これらの問題を放置できない。検討チームでは、「地域精神保健体制・認知症・入院制度」という三つのテーマを議論してきた。中でも今回の大きな成果は、精神保健福祉法の入院制度における「保護者」の撤廃だ。

 「保護者」制度とは、精神障がい者がその病状が悪化してやむなく強制入院となる際に、主に家族がその承諾を与える法律上の制度で他にも多くの責任を家族に負わせている。精神障がいの多くは成人してからの発病なので、年老いた家族が「保護者」の役割を担う。日本は世界的にも強制入院が飛び抜けて多く、精神障がい者の多くはそれによって深い心の傷を負う。その苦しさが、家族に対しての攻撃となり、家族はますます障がい者本人を遠ざける。この悪循環が多くの長期入院患者を生んできた。

 障がいを負うことに本人や家族の責任はなく、障がいの支援は社会が責任をもって行うのが、近代市民社会の原則である。長らく前近代的な家族制度に頼ってきた日本の精神医療は、今ようやく、近代化への一歩を踏み出したのである。

 理不尽な制度によって家族の絆を壊されてきた当事者の方々だけではなく、市民社会の一員として、障がいの「社会扶養」に向かうこの一歩を祝いたい。


たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ、54歳。