ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

水のような心になって


真宗大谷派僧侶
川村 妙慶



 先日、歩いていると横から夫婦げんかの声が聞こえました。「夫婦げんかは犬も食わぬ」ということわざがあるように、けんかというのは後味の悪いものです。

 6年前のことです。結婚が決まった私に、実母は「非勝三原則」と書いた手紙をくれたのです。「夫婦になれば、『勝たない・勝てない・強がらない』で生きろ」と。勝とうとするから、引くことをせず主張してしまいます。また立場上、勝てないこともあるのです。強さだけを出すと、相手はさらに強く怒りだけを向けるかもしれません。


至りてかたきは、石なり。
至りてやわらかなるは、水なり。
水、よく石をうがつ。
蓮如上人

 水はバケツに入れれば丸く、お風呂に水を注げば四角になります。また上から下にさらさらと流れます。水には柔軟性があるのです。その水が雨垂れとなって落ちるうちに、やがて、かたい石に穴をあけるほどの強さを持つのです。私たちはけんかをしたとき、相手に負けてはならぬと向かっていきます。その時の心は石のように固くなっているのです。

 家庭は気持ちを許せる場です。そこには勝ち負けはいりません。ですから家族では、100点を取らなくていいのではないでしょうか。100点は優等生です。優等生になれば「こんなこともわからないのか」と相手に言われるとムカッとなり、「うるさいわね! あなたにだけは言われたくないわ」と反論します。むしろ劣等生でいいのです。「そうなのよ。私ってアホやからわからないのよ」と返事をしたらいいのでしょう。

 家族皆が自分のことを100点と思っていると、相手のことがいつも劣ってるとしか見えません。すると、けんかが絶えませんね。

 水のように柔軟な心で接していきませんか。すると、固い相手の心も柔らかくなっていくことでしょう。



かわむら みょうけい氏
アナウンサー、正念寺(上京区)坊守。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。46歳。