ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

子どもが結ぶ福島・八丈島

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介


 さっきまでわいわいと大声を上げて駆け回っていた子どもたちが、いきなりパタンと布団に並んで倒れている。昨日からそれほど中身たっぷりの日が続いたのだ。海から眺めるとまるで「ひょっこりひょうたん島」みたいな八丈島の、その沖に浮かぶ無人島探検、ひょうたん型の山の中を流れる沢を登って、光りながら落ちる滝の下で泳ぐ。日が落ちると、地元の人の案内で光るキノコに目を見張る。

 その地に障がい者が暮らす限り、そこに踏みとどまって支援を行っている人の子どもたちを中心に、八丈島の自然の中で思い切り遊んでもらおう。その思いから、「福八子どもキャンプ・プロジェクト」が始まった。

 受け入れは「八丈島ロベの会」という精神障がい者施設を運営するNPOだ。今年の5月、私が震災前から面識のあった福島の人たちを、ロベの会とつないで生まれたプロジェクト。東京の会社の保養所を提供してくれた方、温泉を開放してくださった八丈町、民生委員の方々をはじめ、ほとんど島ぐるみで福島の子どもらを歓迎してくれる。

 原発事故でばらまかれた放射能のもつ問題は、今の科学では答えが出せない。安全だと言う人から、どんなに少量でも危険だという人、安全だと思い込みたい人から、危険とわかっていても暮らさざるを得ない人。放射能の問題は、人々とこの社会を、まるで原子のようにバラバラにしてしまったかのようだ。

 しかし、子どもがいちばん放射能の影響に敏感だということだけは一致した見解である。だから、このような保養は必要だし、考え方の違いにかかわらず、すべての子どもに広げたい。そして、将来何事もなくよい思い出として終わればそれでよいし、もしも不幸にも福島の人々の暮らしに障がいが生じた時は、この時間と場所を共有した人たちが助け合う、そのような新しい共同性が生まれることを、私たちは夢見ている。
(詳細はホームページhttp://www11.ocn.ne.jp/~fuku8/)


たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ、54歳。