ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

ただより高いものはない


真宗大谷派僧侶
川村 妙慶



 今、「あげます詐欺」が多発しているようです。

 「遺産の処分に困っている」などと、多額な金銭の譲渡を持ちかけられ、サイト上のやり取りで高額な利用料金が請求されるという内容です。しかも被害は高齢の方に多いというのです。

 そもそも付き合いのある関係ならまだしも、見ず知らずの人から突然「あげます」と声がかかるだけでもおかしいのです。

 さて、「ただより高いものはない」という言葉がありますね。ただで物をもらうと安上がりに思えますが、代わりに物事を頼まれたり、返礼に費用がかかったりして、かえって高くつくこともあるようです。

 ただというのは只と書きます。無料という意味もありますが、取り立てて値打ちはないということでもあります。しかし、その値打ちのない、お金では買えない尊いものが「いのちの恵み」です。

 もし、地球協会から「1カ月の使用料金10万円」と請求がきたらどうしますか? 「一日中、光を取り入れていますから3万円ください」と言われたら、「そんなに高いのですか?」となります。私たちは、この自然にある水、空気、太陽の光、大地などは平等にいただいています。この体も命もすべて、「只でいただいた尊いもの」なのです。

 しかし、「あの人は生きる価値なんてない」など、いのちまでも自分の価値観で比較してはいないでしょうか。

 比較する心というのは、ものごとを「良い、悪い」「損、得」と二つに分けて量る心です。そのことを仏法では「有量」と言っています。そしてその比較して量るというところに「価値」というものが生まれるのです。

 そうではなく「無量」という世界をいただきませんか。量ることはないよということです。誰も代わることのできない尊い寿をいただく。それが「無量寿」なのです。まさしく只ほど高く尊いものはないのですね。只あなたという存在を大切にしていきませんか。



かわむら みょうけい氏
アナウンサー、正念寺(上京区)坊守。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。46歳。