ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

パラリンピックにイマジンを!

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介


 子どものころから運動神経ではのび太君だった私は、そもそもスポーツに興味がないし、団体スポーツなどというものは差別といじめの温床だという「偏見」を頑固に持っているので、オリンピックは見ない、読まない、聞かない。

 ところがロンドン・オリンピックは元ビートルズのメンバーやブリティッシュ・ロックの大物、はてはモンティ・パイソンまで盛り上げに一役買っているではないか。さすがに関心を寄せずにはいられない。主催者も口にしているように、テロ対策の成功と、金融の中心都市ロンドンの復活をアピールせんとする政策に、まんまと乗せられていることには目をつむって。

 案の定、その大会の最中、かまびすしいナショナリズムの発揚にへきえきさせられる。それは想定内だったが、まさかは閉会式で起こった。盛大な式のハイライト、なんと故ジョン・レノンのイマジンが大合唱されたのである。「国境なんてないと思ってごらん、そうさ、簡単なことさ。天国なんてないと思ってごらん、僕らの上には青空だけ」というジョンの歌が、各国がいくつメダルを取ったかを競うオリンピックにふさわしいとは思えない。

 ここで思うのは、障がい者の集うパラリンピックである。ここでは国ごとの競争やメダルの数が取りざたされることが、ほとんどない。だんぜん、潔いのだ。

 それにしても、なぜ、これが毎度オリンピックの後に開催されるのか? 一緒にやればよいではないか。団体競技には必ず一人障がい者を入れる、とか。ナショナリズムのよい解毒剤にもなると思うのだが…。

 ジョンならきっと歌っただろう、「障がいなんてないと思ってごらん、ただ人がいるだけ」と。イマジンという名曲は、パラリンピックにこそふさわしい。

 閉会式、大画面の中のジョン・レノンが、大英帝国の誇りに酔いしれる人々の頭上で、口パクしている。それは、現代のビッグ・ブラザーが現れたような、ちょっとした悪夢であった。


たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ、54歳。