ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

情報の力




さわやか福祉財団理事長
堀田 力



 「波板で高台に移れる人は、12世帯20人ほどしか残っていないんです」と、波板の住人伊藤武一さん(65)は淡々と言う。宮城県石巻市雄勝の沿岸部の集落波板地区も、全戸が津波に流され、生き延びた人々の多くは仮設住宅住まいである。

 しかし、波板のみなさんは、しっかりまとまっている。男性も女性も、みんなが集まって、移り住む高台をどんなまちにするのか、じっくり話し合った。

 「行政に頼ってばかりいちゃダメだからな。おれたちでやれることはおれたちでやらなくちゃ」(実際は東北弁)

 それがみんなの心意気なのだという。

 「それなら移り住む高台の真ん中に寄り合い所を置くのはどうだ。何でもすぐ相談できるように」

 「それがいい」

 さっそくそのことを行政(石巻市雄勝総合支所)に伝えるための書面を作って提出した。

 「それ、いい話ですよ。フォーラムで発表して下さい」と私が頼み、伊藤さんは、10月28日、さわやか福祉財団が石巻市で主催した「最後まで地域でくらせるまちフォーラム」で話してくれた。参加した多くの被災者が伊藤さんたちの自立ぶりに大きな感銘を受け、やる気になってくれたのがうれしかったが、私の驚きは、波板地区のすぐ隣の集落、立浜の住人秋山喜弘さん(65)も、その話を知らなかったことである。

 「えっ、波板ではみんなで決めるのか。女性も入って」と目を丸くされた秋山さんは、伊藤さんと小学校からの同級生で、今「誰でも住み続けられるまちを話し合う会」の会長をされている元校長先生である。

 「だけど、わしらがまとまりがいいのは、大震災の前からだよ。波板の30人ほどが岩手県二戸市の門崎(かんざき)地区に勉強に行って、そこのやり方を勉強してきたんだ。すごく自立してやっているという情報が入ったもんだから」

 このフォーラムで情報の持つ力と情報を伝えることの重要性を学んだ。


ほった つとむ氏
1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。