ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

火災と京のおばんざい

まちの学び舎ハルハウス代表
丹羽 國子



 今年に入り京都市内の火災が急増! と町内会の回覧板が来た。食事時間帯や深夜に台所から多く発生している、という。

 21世紀から京都で暮らし始めて最初の驚きは、店内におばんざいが豊富に並ぶお惣菜(そうざい)屋さんの多いことだった。京のおばんざいを求め、味を吟味しまねることは楽しみの一つである。

 学生時代の東京や生まれ故郷名古屋でお惣菜屋は知らず、スーパーやデパートの物産展で珍しい惣菜を買う程度であった。

 どうして京都にはお惣菜屋さんが多いの? と疑問に思い、ご近所の先輩たち(80代以上)に聴いて納得できた。

 第二次世界大戦の戦火を免れた京都市街地は、戦前からの木造住宅が狭い道に立ち並び、4代にわたり住む袋地の賃貸住宅や京町家が構えている。

 隣近所に住む人の一番恐ろしい心配事は“出火”である。家々は、絶対に火元として火事を出さないこと。出火元になれば軒並みに類焼し、隣近所に顔向けできず、住むこともできなくなり申し訳が立たない、と自覚して、代々、注意深く暮らしてきた。

 そのため、隣同士が助け合って“火事を出さない”を暗黙の了解として、台所でてんぷらなど揚げ物はしないので、お惣菜屋さんが多い、とのことを知った。

 新聞報道によれば、京都市内に危険密集地(幅4b未満の路地にある袋路の数)は4330本あり、全国4番目に多く、大地震になれば大規模火災の危険性が高い。そのため市は、2020年までに住宅の耐震改修や避難路確保の実施を助成事業で促している。

 秋深し隣は何をする人ぞ! お互いにあいさつもせず、無関心な人同士が、共同住宅や京町家に住めば、どうなるの? 案外、一人ひとりの無関心で孤立した状況が火災を増やしているのではないであろうか。

 少なくとも向こう三軒両隣は、出会う時はあいさつを交わし、声を掛け合い、助け合って生きることの大切さが今、問われている。


にわ・くにこ氏 
看護師、ケアマネジャーを経て2009年まで佛教大教授(社会福祉方法論)名古屋市出身。72歳。