ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

あなたにとっての一大事

真宗大谷派僧侶
川村 妙慶



 学生のころ、先生からこう聞かれたことがあります。「『先生』の反対の言葉は何やと思う?」。私は、「『生徒』ですよね」と答えました。すると先生は、「『先に生まれる』と書いて『先生』や。ということは、川村の先に生まれた人はみな先生で、その反対語は『後生(ごしょう)』なんや」とおっしゃったのです。

 今から550年前に、蓮如上人という僧侶がおられました。蓮如さんは、「御文─おふみ─」の中で、「後生の一大事を心にかけて」と繰り返し教えられています。

 「後生」とは、「後世(ごせ)」とも言われ、亡くなった人の世界のことを言うのではなく、今、生きている者に対しての言葉です。先に生まれた方から「あなたは何を学んでいくのか?」と問われているようです。

 しかし、この世は辛いことの多いところだから、死んでからよい世界に生まれ、幸せな場所を見つけたいという方もいます。

 また、平均寿命と自分の年齢を照らし合わせ、「私はあと何年しか生きられない」と不安を感じてしまう方もいます。

 なぜでしょうか。それは今を生き切ってないからなのです。

 先日、京都で一番小さな集落と言われる綾部市、古屋地区に住むWさんとお話しをしていました。この古屋では、Wさん以外は全員が80代の女性です。地元に残されたトチノキの実を使ったまちおこしに取り組み、そのお菓子が多くの方に人気です。そこには太陽の光をいただける間に一生懸命働き、太陽が沈み暗闇になれば寝るという、「自然と共に一瞬一瞬を生きる人間の姿」があるのでしょう。

 頭だけを働かせ、「来年こそはいいことがありますように」と先のことを願う。そのうち、そのうちと言っている間に人生の幕も下りてしまいます。

 「後生」とは、「最後の生(しょう)」です。あなたにできることを大切に、自然と共に今を生きませんか。あなたの一大事は「今」です。


かわむら みょうけい氏
アナウンサー、正念寺(上京区)坊守。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。46歳。