ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

ショージョ

立命館大教授 津止正敏



 地域の危機に挑む「ショージョ」の話。京都丹後・与謝野町の友人が主宰する研究会で話題になった。「ショージョ」といえば、私にはその昔娘と見た「美少女戦士セーラームーン」しか思い浮かばないが、地元では全く説明不要らしい。何? けげんに思って聞くと、新鮮な高い志。「ショージョ」は「商助」と書いた。商売で地域貢献する。町の第1次総合計画(2007年)に、審議委員の強い要望で自助・共助・公助に商助が加わった。町のオリジナルといってもいい。

 この話を聞いて、山科区のN商店のことを思いだした。もう5年も前のことになるが、同区で介護が必要な一人暮らし高齢者のインタビューに取り組んだ。手押し車を押して外出するIさん。歩いては休み、休んでは歩く。「(買い物は?)もう無理、ヘルパー頼みだよ」「(食事は?)近所のよろずやさん。なんでも、刺身が食べたいな、言うたらすぐに届けてくれる。ほんとに助かります」。それがN商店。100年の歴史を持つ老舗だ。「うちのような店、昔はどこの集落にも一つはあったもんだ。もうこの辺ではうちだけだ。でももうからんよ。半分ボランティアだ」

 確かに、農林漁や畜産、工務、建設、運送、織物、米、酒、飲食などの店舗、これらの事業所が稼いだ富はここ・地元で還流した。そして商売の傍らで町内会や消防団、民生委員、青年団、子ども会、PTA等々の役員として地域を担ってきた。商売と世話役が矛盾なく一体化していた。いま、利益のほとんどを東京に吸い上げていく大型店の進出やチェーン化、人口減や若年層の流出、少子高齢化も相まって地域の経済と社会は衰退の一途をたどっている。

 地域を根絶やしにする商売ではなく、地域も人も潤う商売が繁盛して欲しい。N商店が商売としてもきちんと成り立ってこそ、Iさんたちの安心もあるのだ。商助は「いま・ここ」を生きるのだという強い決意と希望に満ちている。全国に広げたい、与謝野発の志。


つどめ・まさとし氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる−男性介護者100万人へのエール−』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言−』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」−』、『子育てサークル共同のチカラ−当事者性と地域福祉の視点から−』など。