ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

苦しみぬいた涙の結晶

真宗大谷派僧侶
川村 妙慶



 先日、物置から、茶封筒に入れられたアクセサリーが出てきました。

 私が20代の頃です。アナウンサーの仕事で、長い下積み生活が続きました。本番で失敗するたびどれほど怒鳴られたことか。泣きながら、それでも続けていたのは、こんな私でも必ず仕事をくださるイベント会社の社長がおられたのです。

 「川村君! 何度も失敗して泣きなさい。涙の数だけ強くも優しくもなれるから」

 ところがその社長と連絡がとれなくなり、半年分のギャラが支払われませんでした。そしてある日、茶封筒の手紙が届いたのです。

 封筒には、「会社が倒産し、どん底の生活です。ギャラは、これで勘弁してもらえませんか」という文面と、真珠のネックレスが入っていました。どうせ偽物だと思い、そのまま物置にしまっておいたのです。

 ある人にみていただいたところ、この真珠は本物でした。すると「やはり本物はキレイだな」と興奮したものです。それまで見向きもしなかったのに(笑)。

 さて、真珠はどのようにしてできるかご存じでしょうか? 真珠貝(主にアコヤ貝)は普段、砂の中で生息しています。すると、海水と一緒に砂や泥を吸い込みます。異物が入ると、貝は痛くて吐き出そうとするのですが、どうしても吐き出せません。すると逆に長い年月をかけてその異物を包み込もうとします。そうしてでき上がったのが、あの真珠なのだそうです。真珠の輝きは、いわば真珠貝が苦しみぬいた涙の結晶なのですね。

 私たちは苦しみがあると、楽しいことや忘れさせてくれる何かを求めようとします。それは現実から逃げ、ごまかそうとしているだけです。私たちは苦しみを受け入れてこそ、豊かな深い人生を送ることができるのです。

 6月の誕生石は真珠。

 「何度も泣いて強くなりなさい」と言ってくださった社長の贈り物を、20年たった今、首元につけて出かけてみようと思います。


かわむら みょうけい氏
アナウンサー、正念寺(上京区)坊守。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。46歳。