ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

462万人を知る

立命館大教授 津止正敏



 1年足らずで1・5倍になった。株価の話ではない。6月1日、認知症高齢者が462万人になったと各種メディアが一斉に報道した。厚労省の研究班による新しい推計値だが、65歳以上の6人に1人だ。認知症になる可能性のある「予備群」も400万人という。

 昨年8月にそれまで200万人とされていた認知症高齢者が305万人になったという厚労省発表があったばかりなのに、1・5倍とは驚いた。新しい調査の度に、従来の知見が大幅に更新される。識者に「画期的」と評された「オレンジプラン(認知症施策推進5カ年計画)」の基になったのが305万人だけに、プランの実効性が気になる。

 日本医療福祉生協連合会の調査結果にも驚いた。今年3月に公表された。千人を超える同生協連のケアマネジャーが担当する認知症高齢者から約5千人を抽出して実施、回収数は4657人。一人暮らしの認知症の人が2割を超えた。

 問題はその状態だが、軽度の人ばかりでもない。3割が日常生活に支障をきたし介護が必要とされる認知症自立度V以上の人だ。

 「介護保険の効果絶大! 認知症になっても一人で暮らせるのだ!」とは大きな勘違いだ。一人暮らしの認知症者の7割近くは「主たる介護者」がいる。通い介護する娘や息子たちだ。家族頼みの実態は一人暮らしでも無縁ではない。

 どのような認知症の人が何人いて、どこで誰とどのように暮らしているか、ということは施策策定の基本中の基本だが、まだわかっていないことの方が圧倒的に多いのだ。だから、オレンジプランでは認知症の早期診断と初期の集中支援を何より強調しつつ、いまや軽度者を介護保険から平気で外そうとする不見識が横行する。初期の認知症の人が集中するのは軽度者というのに。認知症者の症状や暮らしを少しでも知る人は不安を募らせている。

 いま・ここを生きる462万人とその家族のことを知る努力と知らせる運動、私たちの課題だ。


つどめ・まさとし氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる−男性介護者100万人へのエール−』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言−』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」−』、『子育てサークル共同のチカラ−当事者性と地域福祉の視点から−』など。