ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

蝉の一生 はかないのか

真宗大谷派僧侶
川村 妙慶



 本格的な夏がやってきましたね。お寺の境内では蝉の大合唱がはじまりました。蝉は7年間、地中で生活し、夏になって地上に出てきて、わずか一週間で死ぬと言われています。

 そういう蝉の姿を見て、「蝉の命は短く哀れな虫」だとおっしゃる方がいます。蝉だけが哀れな生き物なのでしょうか? 蝉さんの方は「そう言っている人間も神経をすり減らし、他人の評価におびえながら生きて一生を終えていますよ」と鳴いているかもしれません(笑)。

 さて、私たちは「自分のことは何でも知っている」と思いがちです。しかし、この私の全体の姿を肉眼で見たことがあるでしょうか。鏡に映った私の姿を見ることしかできないのです。

「蟪蛄(けいこ)春秋を識(し)らず」(曇鸞大師)

 蝉は春の桜、秋の紅葉、冬の雪景色を見たことがないのです。なぜなら、そのころは地中にいるからです。四季という全体を知らない蝉が、どうして「今が夏」だと知ることができるのでしょうか。

 私たちは楽しいことや心地よいことを自然と求めます。それが幸せと思っています。その反対に悲しみや苦しみに出会うとどうでしょうか。その時は「こんなのは私の人生ではない」と、何とかして目をそらそうとします。しかし、楽しいことや幸せだけを経験して、なぜそれが自分だと言えるでしょうか。苦しみの意味を知らずに、どうして「私は自分のことを知っている」と言えるでしょうか。

 蝉は、暑い夏にいながら今が夏であることがわからないように、私たちが今の自分に自信がもてなかったり不安に感じたりするのは、「生老病死」という人生の四季をしっかり見ていけていないからです。苦しみから目をそらすのではなく、苦しみも私を育ててくれる通過点なのです。

 人生の与えられた季節をすべて経験させていただきましょう。それが私を知り、生きるということなのですね。


かわむら みょうけい氏
アナウンサー、正念寺(上京区)坊守。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。46歳。