ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

幽霊は誰の姿?

真宗大谷派僧侶
川村 妙慶



 夏といえば、怖い話をしながら肝試しという方もおられるでしょう。さて皆さんにとって幽霊というのはどんなイメージでしょうか。

 幽霊の特徴は四つあります。一つ目は、手が前のめりになっている姿です。私たちは、目の前が真っ暗になると不安になりますね。すると、前のめり状態になり、手探りしながらさまよい続けることしかできません。手を前のめりにしている姿は、未来に対する「不安」を表現しているというのです。

 二つ目は、髪の毛が長いということです。ショートカットの幽霊は見たことがありません(笑)。髪が長いのは、「後ろ髪を引かれる」という言葉もあるように、過去に対する後悔の念を表しているということです。

 三つ目は、足が見えず、胴体が宙に浮いている姿です。つまりこの私が現実という大地にしっかり足がつくことなく、理想を求め、フラフラさまよっているのです。

 そして四つ目は、「うらめしや」というセリフです。「こんな状態になったのは、あの人が助けてくれなかったからよ!」とか「世間が悪い」など、私の苦しみは他人や環境や運が悪いと、外のせいにしてしまうのです。

 外にすべて解決策があるのでしょうか。思い通りになれば喜びますが、かえって不都合なことになれば、愚痴と恨みでしか残らないのです。世間の価値観は一定ではなく、さまざまに変化しています。それがわからないと、一生、外の価値観に流され続けることになるのです。

 亡き人は浄土へと生まれ往き、仏とならせていただくのですから迷っていません。むしろ迷っているのは「この私」なのです。人間はだれだって不安を抱えます。過去も振り向きます。それが私なのです。その不安や後悔から逃げることなく、現実という大地に足をつけて、今できることを精一杯(いっぱい)させていただき、生きていきましょう。「安心なさい」と先人はおっしゃっていますよ。


かわむら みょうけい氏
アナウンサー、正念寺(上京区)坊守。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。46歳。