ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

障害者就労を支える仕事づくり

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介


 人はどのような障害を持っていても、その人ごとの能力を生かして、社会の中の居場所や仕事を持つ権利がある。しかし、障害者というだけで、その道が閉ざされることが多い。特に、精神障害者は、その障害に対する理解が進まず、未だに社会参加もままならない。ましてや就労となると、はるかに道は遠い。

 今年、障害者雇用促進法が改正され、精神障害者も法の対象者に含まれることになった。それに伴って、様々な就労支援が整備されつつある。

 私は現在、重度精神障害者の訪問支援を行っているが、その仲間が就労移行支援施設「そらいろ」(京都市中京区)を立ち上げた。今、三年目。少しずつ成果があがり、各方面から一般就労を目指す精神障害者が集まってくる。私たちが訪問支援を行ってきた人たちからも、そこで就労に結びつく人も出た。

 もちろん、すべての精神障害者に一般企業への就労がかなうわけではない。しかし、就労とは本来、適正な社会的報酬が得られる活動である。かなり重度の精神障害者でも、適切な援助があれば短い時間の労働は可能だ。その報酬が適正であれば、それによって「自尊心」が回復する。それが、障害の改善にも結びつく。

 そのような仕事づくりを目指し、私たちはまず地ビールづくりをはじめた。「一乗寺ブリュワリー」(京都市左京区)といい、レストラン「てぃんがーら」を併設して販売している。岡山県ではすでに精神障害者による地ビールづくりが成功しているが、こちらはまだ障害者を雇用できるまでの事業には育っていない。しかし、その事業の周辺に、野菜づくりや食材づくり、配達作業などをつなげて、将来はそこで重度の人でも支援しながら働いてもらえるようにしたい。さらに、「そらいろ」と連携すれば一般就労への道も開けるであろう。

 福祉の行く末が見えない今、「仕事づくり」が未来を拓く。それは閉塞(へいそく)した時代に生きる若者たち、健常者にとっても、同じである。


たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ、54歳。