ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

嘘と秘密、そしてなし崩し

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介


 発達障害という子どもの障害がある。この障害を持つ子は、独特のこだわりを持ち、相手の心中を読んで場の雰囲気にあわせることが苦手である。この特性は裏を返すと、秘密が持てず嘘をつかない、決まった規則は崩さないという長所にもなる。実際、彼らは規律正しい生活や細かい作業が得意だ。

 しかし、人生は、ある程度のゆるさ、ちょっとしたごまかし、適度なだらしなさがないとうまくいかない。「嘘」と「秘密」と「なし崩し」は、円滑な人間関係には軽い潤滑油である。だから、融通がきかず正直すぎる彼らは、不幸にも世間の目には障害とうつる。

 ところで、この頃の政治には、嘘と秘密となし崩しばかりが目につく。「状況は完全にコントロールされている」というのはどこの国の話なのだろう。原発の汚染水は、その後も漏れ続けている。人類は放射能を完全にコントロールする術を持っていない。

 秘密保全法の成立が危惧され、一部の政治家は「国には秘密を守る義務がある」と言う。しかし、国家の嘘と秘密が国民のためになったことは、人類の歴史上、一度もない。

 いつのまにか日本の空をオスプレイが飛び、いつのまにか異次元の金融緩和とTPP参加が決まり、あれよあれよの間にオリンピック開催が決まった。この調子でいつのまにか「なし崩し」に、平和を守るために戦争しようとなるのだろうか。

 私たちひとりひとりの生活の中に、嘘や秘密、なし崩しがあるからといって、そしてそのために間違いが起きたからといって、私たちは国家ほどの大きな過ちは犯せない。せいぜいどこかのドラマのように、土下座して謝れば許しあえる。だが、国家の過ちは、そうはいかない。

 発達障害の子らは、ただでさえ周囲の大人のなし崩しのいいかげんさに耐えられず、嘘や秘密が理解できずに苦しんでいる。彼らの目に、この国の政治家の言動は、どのようにうつるだろうか。


たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ、54歳。