京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●コラム「暖流」
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。 もう、ビートルズは教えてくれない
ポール・マッカートニーがやってきた、暗い話題の多いこの列島に。ビートルズ時代の曲を中心に、解散後40年歌い続けてきたヒット曲、今も創造力衰えぬ新曲まで。トレードマークの左利き仕様のベースやギターを次々持ち替え、ノンストップ休憩なしの2時間半に及ぶ熱演。会場を埋め尽くす3万人が狂喜した。
会場には、団塊世代前後の年輩者が目立つ。その年代の夫婦らしきカップルも多く、彼らはビートルズ時代の曲が出ると、抱きしめたい、とばかりに互いの肩をたたいて喜びあっている。 ポールは今年71歳。その歳で果たして何曲歌えるの、前座と幕間ばかりだろうな、はては、おむつをしているかもねなどと、かつてのビートルズ・ファンの若者だった僕らは勝手なことを言いながら公演に臨んだ。が、トイレ休憩が欲しかったのは、ひとまわり以上若いはずの僕らだった。 ステージを縦横に動き踊り、おどけてみせ、そしてパワフルにシャウトするポール。あの年齢で、と皆が驚きの声をあげていた。僕らも口々にそう言い、後日の雑誌や新聞も一様に書きたてた。71歳。かつて、64歳になったら引退しようよと歌っていたのに。 大戦後の世界的な経済発展がそれまでの価値観を一変させ、若者が文化の主役となった60年代。人類全体が青春を謳歌(おうか)した時代。その時代の生き方を、ビートルズが教えてくれた。 そしてジョンが殺され、ジョージが倒れた。いつのまにか世界は弱肉強食の経済至上主義に覆われ、弱者が切り捨てられる社会になった。ビートルズが生まれた英国ですら、福祉国家はすでに過去のものだ。これからのことは、もう、ビートルズは教えてくれない。 4年後、ポールも「後期高齢者」だ。彼とて弱者の一人になるのだ。その時、彼が歌うのをまた聴きたい。リバプールの貧乏な若者だった男が、長く曲がりくねった人生の終わり近くに、今のこの世界をどう歌うのか、聴きたいと思う。 たかぎ・しゅんすけ氏 2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ、54歳。
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