ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

心に尋ねる

真宗大谷派僧侶
川村 妙慶



 早いもので師走ですね。師でも走り回るくらいの忙しい時期です。また一年の締めくくりとして「忘年会」があちらこちらで行われていますね。その中でカラオケを披露しなければと張り切っている方、反対に上手には歌えないと悩んでいる方もいるのではないでしょうか。

 さて、歌の得意な鳥はなんといっても鶯(うぐいす)です。「ホーホケキョ」と気持ちよく鳴く声は、なんとも聞きほれてしまいますね。

 しかし、鶯ははじめから上手に鳴いているのではないそうです。まずは先輩鶯の声を黙って聞いているそうです。何日も何日も黙って聞いています。そのうち、自分もそっと小さい声で、「ホーホケキョ」と声に出してみるそうです。始めは、「ホー」だけであったり、「ケキョ」と鳴いたり、なかなかタイミングよく鳴けません。そんな時は何度も黙って聞くことにより、やがて一人前に「ホーホケキョ」と鳴くことができるそうです。

 ところが、上手く歌えない鶯ほど、先輩のまねをすぐ始め、また出来もしないのに一人前のように歌おうとするそうです。

 私はアナウンサーの経験を得て、実家であるお寺を継ぐべく僧侶の道を歩みました。意気込んでいる私に、師は「川村君!10年間は人前で話すな」とおっしゃいました。中身も伴わないうちから話の技術だけでごまかそうとする私に、警告を与えてくださったのです。「実力のない者ほど言いたがり、知らない者ほど知ったかぶりをする」

「ホーホケキョ」と鳴く鶯の声を聞いた蓮如上人の耳には「法を聞け」と響いたそうです。「法華経」の教えが鶯の声となり、わが身に届けられた。その声を「聞け」と学ばれたのです。

 2週間も声が出なくなった私に主治医が言ってくれた言葉は「声が出る特効薬はひたすら黙ることです」と。バタバタと気ぜわしくしている私に、「静かに我が身の心に尋ねて聞いていきなさい」と命からメッセージをいただいたようです。


かわむら みょうけい氏
アナウンサー、正念寺(上京区)坊守。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。46歳。