ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

介護ラッシュ!

立命館大教授 津止正敏



 女性の平均寿命が世界一(86・41歳)になり男性も79・94歳と過去最高になった。今年の朗報の一つだが、健康寿命(介護なしに生活できる)と比較すれば男性で9年余、女性では12年余の差があると厚労省がいっている。もちろん健康寿命の方が短いのだが、とすれば人生後半期の数年間は誰もが「介護して/されて暮らす」ということだ。介護は個人・家族を超えてもう社会問題だ。介護サミットを開催し「介護大国JAPAN」から世界に発信すべき課題ではないのか。

 なのに、政治の世界では介護はどうも忌み嫌われているらしい。介護保険の改定作業の度に何処(どこ)を削るか捨てるか、財政難の脅しの議論が始まり、世論の批判が吹けば初期の削減幅をわずかに修正し「改正」する。今度の異常な特定秘密保護法国会のドサクサで成立した社会保障プログラム法もそうだった。具体は個別の法案に委ねているが、要支援者外し、自己負担増、特養ホームの利用制限等々見直し方向は明記された。またか、と介護を厄介者扱いする政治にお灸(きゅう)を据(す)えたくもなる。

 でも、みんなに聞いてほしい嬉(うれ)しい話もある。介護が主役、眩(まぶ)しいくらいのスポットライトを浴びている世界もあるのだ。あの映画を観たかい!「ペコロスの母に会いに行く」、原作漫画だってベストセラーだ。エイジングを肯定し77歳の婚活を描いた燦燦(さんさん)もあれば、母の老いに向き合う息子の仏映画「母の身終(みじま)い」もある。財界や企業のリーダー層を読者とする経済誌は、もう介護ラッシュだ。もう読んだかい!「介護離職」・「介護ショック」・「親と子の介護」。いずれも名だたる週刊経済誌の12月初旬の各号表紙をデカデカと飾った特集テーマだ。メディアでも学会でも介護が話題とならない日はない。

 きっと政治を正し介護に引き寄せる力になるに違いない。そこには、身を粉にして介護を担う人、身を晒(さら)して取材に応える人、この実態を見よ!と声を限りに叫んでいる介護者と支援者がいるのだから。


つどめ・まさとし氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる−男性介護者100万人へのエール−』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言−』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」−』、『子育てサークル共同のチカラ−当事者性と地域福祉の視点から−』など。