ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

七つめの虹の色は

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介


 ソチ冬季五輪が終わった。自国他国の選手の活躍に多くの人が熱中した。私の患者さんたちも自分が応援する選手の活躍をリアルタイムで見たいと、薬を調整して夜更かししたり、苦手な早起きに挑戦したようである。主治医の私も、その微笑(ほほえ)ましい努力を笑って許し、かつ勝利をともに祝うしかないのであった。

 五輪という国家イベントに懐疑的な私だが、この祝祭の雰囲気はいやではないし、社会の活力のためにもお祭りは必要だ。

 だが、五輪報道の一面性には違和感を感じる。

 今回のソチ五輪では、ロシアの「同性愛宣伝禁止法」への国際的批判が盛り上がった。開催国ロシアは「すべての個人はいかなる種類の差別もなく、五輪精神によりスポーツを行う機会を与えられなければならない」と定める五輪憲章に明らかに違反している。

 そのために、米、独、仏等の国の首脳が開会式を断固ボイコットした。世界中の少数者差別と闘う団体が五輪協賛企業を批判した。ドイツや五輪発祥の地ギリシャの選手団は、同性愛差別に対する抗議の象徴である六色の虹色に染めたウエアやグローブで開会式に臨んでいる。世界的IT企業のグーグルは、私たちのパソコン画面をその虹の六色で彩り、差別に抵抗した。

 そんなソチ五輪の開会式に、日本の首相らは何ら批判もなく出席して友好をアピールした。このことに、日本のマスコミや政治家はまったく無関心だ。在日の人々に醜悪な罵声を浴びせるデモが各地で横行し、世界は日本の露骨な差別主義を懸念しているのに。

 ところで、日本では虹は七色である。この国の古人の感性は、虹にもう一色、欧米の人々よりも多い色彩を見いだしてきたのである。虹にもうひとつ主張を加える余地を、私たちは手にしている。

 6年後には東京五輪だ。その時、この一色に、レイシズム(人種差別主義)への抵抗の意志をこめてはどうだろうか。あらゆる人種のすべての人々のための、自由と平等の祭典として。


たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ、54歳。