ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

新緑の季節に憲法を

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介


 新緑の息吹と憲法の日の五月、憲法議論が盛り上がってきた。

 現政権は改憲が必要だという。アメリカの押しつけ憲法だという。だが当の政府が、沖縄問題はじめ何事につけアメリカの顔色をうかがってばかりいるのだから、押しつけだからダメだという理由は、怪しい。

 現憲法の柱は「国民主権、平和主義、基本的人権」である。改憲はこの基本にかかわるものだ。この三つの精神は、押しつけだろうがなんだろうが、これまでの人類史の達成である。「国民」とは誰かという問題はさて置いても、将来にわたって守られるべきものだ。

 これに対して、自民党の改憲案は、「国民」よりも「国家」が中心だ。さらに「公共の福祉」という言葉を消して、「公益及び公の秩序」に置き換えているのだから、この「暖流」にとっても人ごとではない。

 集団的自衛権をはじめ戦争のできる国にするのが改憲の目的らしいが、少子高齢化の苦難を背負うこの国の若者を、どこに向かわせようというのか。残虐さの高まる現代の戦争は、戦地の若者の精神を破壊する。

 イラクの高遠菜穂子さんやアフガニスタンの中村哲さんのように、世界平和に貢献する手は武力に頼らなくてもいくつもある。そのような方途を考え尽くさず、平和を守るために積極的に武力を用いようというのは、権力者の「平和ボケ」だ。脳と精神を使うのを怠っていると、筋肉がウズウズしてくるのだろう。

 そもそも憲法は、権力者を縛るために民衆が圧政・暴政に抗して勝ち取ったものである。明治憲法下においてすら「憲政の神様」尾崎咢堂は、戦勝に奢(おご)れる桂内閣を憲法を盾にして解散に追い込んだ。桂首相が「あたかも忠君愛国は自分の一手専売のごとく」唱えているという彼の糾弾は、今の誰かさんにも言えそうだ。

 誰もが国境を易(やす)々(やす)と越えることができる今の世界、国家を重視した改憲など考えるのはよして、生まれた場所に根づく郷土愛の憲法と、世界市民へと羽ばたく憲法を考えてみないか。


たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ、54歳。