ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

サイレント・プア

立命館大教授 津止正敏



 この春、地域福祉関係者の話題をさらったドラマ「サイレント・プア」(NHK)が終了した。社会に浸透する新たな貧困=「孤立」がメーンテーマだった。介護もその大きな要素として何度も登場した。

 そんな折の5月、二つのお祝いの式に呼ばれた。一つは多分日本で初めての男性介護者の会、東京都荒川区オヤジの会、もう一つはここ京都、西京区の家族介護者の会・虹の会、どちらも発足20周年を祝う会だ。東京の方は、あいにく体調を崩してしまい祝電での参加となったが、虹の会の式典は関係の皆さまと一緒にお祝いすることが叶(かな)った。

 家族の介護によって繋(つな)がるこのような組織や活動は古くからある活動でもない。高齢者介護に比して歴史のある障害者の分野でも、その家族の組織や活動といえば新しい領域だ。知的障害の子どもと暮らす代表的な親の会「手をつなぐ育成会」だって戦後世代だ。「3人のお母さんが知的な障害のあるわが子の幸せを願い」仲間の親に呼びかけて発足したのは1952年、いまでは30万人の大組織だ(同会ホームページ)。同じような立場にある幾千幾万もの人が、小さな声に共振して結集した。「ひとりじゃない!」。もう社会からの排除ではない、社会を動かす新しいケア・コミュニティの誕生だ。

 高齢の家族を介護する人や支援者の組織や活動も、多分に同様の歩みを辿(たど)ってきたに違いない。認知症の人と家族の会が京都で生まれ(1980年)、瞬く間に全国に広がっていった。社協活動にも後押しされて各地に虹の会のような家族介護者の会が次々に組織されていった。そしていまケアメンやヤングケアラー、ワーキングケアラーという新しい介護者の集いや活動も生まれている。

 「ひとりじゃない!」。介護者、数百万人への呼び掛けのバトンは、いま第1世代から第2、3世代へと懸命に引き継がれている。「サイレント・プア」に抗するケアのコミュニティが社会の希望の灯となる時代だ。


つどめ・まさとし氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる−男性介護者100万人へのエール−』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言−』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」−』、『子育てサークル共同のチカラ−当事者性と地域福祉の視点から−』など。