ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

被災地の子らに保養を

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介


 東北はまだ新緑の五月末、郡山に行った。第3回福八子どもキャンプの説明会である。福島の子どもたちを八丈島で保養してもらう企画だ。(ホームページあり。「福八子ども」で検索)

 郡山は阿武隈山系を背景に安積疎水が張り巡らされた、水と緑の町である。豊かな水力発電の歴史がありながら、東電の原発事故による大量の放射性物質で汚染された。空中線量は平常値だが、静かな公園の水辺では、今もその10倍近い高線量の場所がいくつもある。その公園で遊ぶ子どもや家族の姿は、まばらだ。

 最近、「美味しんぼ」鼻血騒動と呼ばれる事件があった。福島を取材した漫画で、福島を訪れた主人公に鼻血が出るようになった、福島では多くの人に同じような異常があると描いたのだ。福島の風評被害を煽(あお)るデマだと、政治家まで出てきて作者らが糾弾された。

 しかし、低線量被曝(ばく)が健康に及ぼす影響には議論が多く、科学的な決着はついていない。漫画の一コマにここまで騒ぎが大きくなるのは、国民の放射能に対する不安と、国の情報開示への不信が高まっている証拠だろう。それが、むりに抑えつけられているのだ。

 放射能をあまりに怖がると精神的身体的にかえって悪影響が出る、だから「放射能は正しく怖がりましょう」と言われる。だが、人が感じる「恐怖」に正しいも誤りもない。正体がわからないからこそ、信頼できる人や情報がまわりにないからこそ、怖いのだ。

 低線量被曝、とりわけ「内部被曝」には、現代の科学では解明できていない怖さがある。しかし、「正しく怖がる」ことはできないが、少しでも被曝を少なくするよう「適切に対処する」ことはできる。いや、しなければならない。

 子どもが少しでも被曝を避けること、そして健全な発達を守ること。そのために放射能の少ない土地で過ごし、自然の水や土の中で思いきり遊べる「保養」が必要だ。それは「適切な対処」のひとつである。子どもたちの保養が、当たり前の権利になることを願う。


たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ、54歳。