ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

無関心

真宗大谷派僧侶
川村 妙慶



 ある女性からこんなメールが届きました。「私は会社の朝礼が苦痛でなりません。なぜならフリートークがあたるのです。業務報告はできますが、日々、感じたことを言えといわれても考えたこともありません。どうしたらいいのでしょうか?」と。

 なぜここまで苦痛に感じるのでしょうか? 尋ねてみると小学生の頃、夏休みの宿題である自由研究はすべて親が引き受け、「あなたは勉強だけやっておきなさい」と言われたというのです。知識を増やすことだけに力を入れて人間が持つ、感覚というのはどこかに置き忘れてしまったのです。人間は勉強だけではなく、日々の生活での体験、観察、人間関係から、はじめて豊かな心、想像力をもつ人間になれるのです。

 知識を身につけるということは大切なことですが、一方では「自分にとって興味のないこと、メリットのないことには無関心になる」という弱点も持ち合わせてしまうのです。私たちは興味のあること、ないことと切り離しては生きていけません。なぜならすべてがつながっているからです。

 私のいのちは、自分で作ったものではありません。はるか昔から多くの方の縁でつながれて今の私があるのです。この人と私は違うと切り離すことはできないのです。

 海に流れ込んだ水は、太陽の光に照らされ暖められると、水蒸気となって大空に昇ります。空高く昇った水蒸気は、冷やされて、また、雨となって地上に降り注ぎます。ある時は、田や畑に、植物に。そして、私たちの飲み水にもなります。それは川に流れ出し、やがてまた海にたどり着きます。すべてがつながっているのです。

 「ある時には空や大地をながめながら、そんなことを思う時間をもってほしい。それがあなたを深い人間へと成長させるのですよ」と彼女に返信しました。

 どんなことにも関心を持ち、いのちの声を聞ける者として生きたいですね。


かわむら みょうけい氏
アナウンサー、正念寺(上京区)坊守。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。46歳。