ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

「ごみ屋敷」問題を考える

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介




 「京都市不良な生活環境を解消するための支援及び措置に関する条例」案、いわゆる「ごみ屋敷条例」が京都市議会で審議されている(10月6日現在)。

 「ごみ屋敷」(TV番組が面白半分に流行(はや)らせた、なんだか失敬な言葉だ)の原因は、老化や疾病、障害、貧困などさまざまだが、共通するのは社会的孤立という背景だ。独居高齢者や貧困の問題はこれからますます深刻になる。強制的な命令や撤去、罰則だけで解決するものではない。

 しかし、条例案は、「ごみ屋敷」への立ち入り調査や即時執行、撤去命令や代執行などの強制的介入、さらには氏名など個人情報の公表や過料といった強制、制裁が目立つ内容だ。これでは地域社会からの非難を煽り、当事者の孤立を深めるだけである。

 精神的な病気による場合は、さらにデリケートである。私は職業柄少なからぬ「ごみ屋敷」を経験したが、強権的な方法がうまくいったためしはない。統合失調症の人ならば、他人にはごみと見えるひとつひとつに意味があることもあれば、被害妄想によってごみ出しができないこともある。慢性のうつでは日常生活すべてが労苦となる。自分でもわからないまま、ものを捨てることができない人もいる。ひととき、「片づけられない女」という本が話題になったが、発達障害が背景にある場合もある。

 隣の墓に供えられた花が枯れるのを惜しみ、部屋に持ち帰っては乾かし積み上げていた女性は、私たちがその「ごみ」の幻想的な美しさをほめたとたんに打ち解けて、徐々に片づけさせてくれた。ごみ出しができなかった男性は、毎日の訪問で玄関前に出されたごみ袋を回収しているうちに、少しばかりキレイになった玄関を開けて、私たちと会ってくれるようになった。

 「ごみ屋敷」問題を解決しようとすることに異論はない。しかし、「共生社会」をめざすと言いながら、強制と処罰でものごとを進めようとする姿勢はいただけない。問題は、私たちの「心のごみ」なのかもしれない。



たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ、54歳。