ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

共感の根っこ

立命館大教授 津止正敏



 夏が終わったかと思えばもう間もなく立冬だ。木枯らしの季節を迎えようとしている。

 水遊び、スイカ、風鈴、天の川に七夕、夕立、花火、蜩(ひぐらし)の声。先祖に守られつい信仰深くにもなったお盆を過ぎれば、もう秋の気配だ。露が冷気と接し、そろそろ紅葉も始まる。夏と冬の渡り鳥が交代する時期、天候は不順だが、空気が澄んだ日も多くなり、夜には月も星も美しく輝く。今年は3年ぶりの皆既月食、京都でも晴天に恵まれ月食の始まりから終わりまで5時間余りの天体ショーを楽しむことができた。でも言葉を失するような悲惨な災害・事故も相次ぎ思わず天を恨んだ。誰もが自然の恵みと厳しさを胸にしまいながら木枯らしに備えようとしている。

 自然は故郷に向かう心情に重なる。「ふるさとは遠くにありて思ふものそして悲しくうたふもの」(室生犀星)、「ふるさとの山に向ひて言うことなしふるさとの山はありがたきかな」(石川啄木)。私は金沢にも岩木山にも縁があるわけではないがこの歌を口にするたびについつい感傷的になって故郷を思う。多分多くの人もそうに違いない。希望に夢溢(あふ)れ心弾む時も、挫折し涙に暮れる時もいつも故郷の原風景は心の支えになった。そう、共感の根っこが繋(つな)がっていたのだ。

 この共感の根っこは一変した。情報も交通もあの時代とは比べようもないくらいに巨大化した。変化が時代の代名詞となり、経済成長が錦の御旗となった。昨日と同じ今日が明日も続くのではなく、今日は一瞬にして地域・国境を越え全く新しい時間に更新される。あらゆる資源が一極に集中し周辺は極度にやせ細った。故郷にはシャッター街が拡がり、「消滅可能性都市」や「極点社会」など故郷崩壊を煽(あお)る情報が溢れるようになった。

 だからいま地方創生だ、という。が、カジノにリニアに原発、TPPだ。心の拠(よ)り所となって支えてくれる共感の根っこは創生していくのだろうか?人が住みコミュニティーが広がらなくては元も子もないのに。



つどめ・まさとし氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる−男性介護者100万人へのエール−』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言−』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」−』、『子育てサークル共同のチカラ−当事者性と地域福祉の視点から−』など。