ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

募る不安

立命館大教授 津止正敏



「あったらいいな 介護者の 介護保険」。介護をテーマにした市民講座のお誘いを気軽に引き受けその忙しさに後悔することもあるが、それが縁でネットワークも広がり、教えられることも多く。楽しくあちこち動き回っている。結果オーライだ。先月の愛知県春日井市のイベントもそうだった。冒頭の川柳は主宰者よりいただいた同市制70周年記念事業誌『介護川柳』(2013年)に載っていた。いまの介護保険制度に欠けている「介護者支援」の課題を言っているのだが、ホントにそうだよね、とストンと胸に落ちる。

 この4月から改定介護保険法が施行される。財政課題が先行し、要支援者のヘルパーやデイサービスの利用を各自治体に移し、特養の入所は要介護度3以上にする。一定所得以上の利用者負担を2割に改める。特養などの施設整備は財政的に現実的でないとされ、医療や介護等を一体的に提供する地域包括ケアシステムの整備で対応するという。

 でも財政課題というのなら、24時間365日の地域包括ケアシステムこそハイコストな政策ではないか、ニーズ受信後30分以内に駆けつけ利用者ニーズに応えていくのには、特養の何倍もの職員配置と莫大(ばくだい)なタイムラグが生じるのではないか。施設と違い一様ではない住まいや移動の環境は、ケアサービスの提供をより複雑・困難にするのではないか。財政理由で地域包括ケアシステムというのであればその狙いは透けて見えるし、施設整備の抑制はケアの劣化を招くだけだ。お泊まりデイや一部のサービス付き高齢者向け住宅などの実態をみればすぐにもわかることだ。介護報酬も削減される。介護の社会化どころか結局は家族頼みの私的ケアシステムに後戻りするだけではないかと不安は募る一方だ。

 介護をする人もされる人も共に分厚い社会的支援に包まれて暮らせる介護システムこそ、介護保険施行15年の到達にふさわしい方向だと思うのだが。ホントに、あったらいいな。介護者のための介護保険。



つどめ・まさとし氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる−男性介護者100万人へのエール−』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言−』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」−』、『子育てサークル共同のチカラ−当事者性と地域福祉の視点から−』など。