ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

国・東電はまず謝罪を

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介




 4年目の3・11、いまだとうてい収束しえない福島第1原発事故をうけ、放射能による健康被害の議論が高まっている。

 あの「鼻血騒動」を引き起こしたマンガ「美味しんぼ」の原作者が反論の本を出した。福島の取材時に出た鼻血は、放射能のせいだと再度主張して議論になっている。ある人気女性歌手が、福島の食べ物の安全性に対して、母親の立場から不安を述べ、ネット上で厳しい反論を受けた。

 反論の多くは、福島の食品は厳格な検査によって安全性が保証されているということ、低線量での健康被害は証明されておらず、現在の福島で鼻血のような一見華々しい症状は起こりえないことを説いている。私もいくつかの点ではこの反論に与(くみ)する。短期間の取材訪問で複数の者が鼻血を出したことを、単純に放射能が原因とは断定しにくい。また、現在の信頼できる測定技術で放射性物質が自然状態以上には検出されなか?たとすれば、その食品は少なくとも私たち大人にとっては「安全」だろう。

 一方で、原発事故直後の福島で少なからぬ児童が鼻血を出したことが記録されているし、事故直後の調査でも示されている。これは、他の被災地ではみられなかったのだから、放射性物質による内部被曝(ばく)である可能性を否定できない。ストロンチウムなどの危険な核種が海に流れ出て、魚介類に蓄積している危険もあるが、十分な対策はなされていない。何よりも、微量の放射性物質による内部被曝についての科学的知識は、いまだに不十分である。

 原発事故の全容はあまりに巨大であり、私たちの「コントロールを超えている」。そこに政治の影が見え隠れしているのだから、多くの人が不安を抱えて当然である。科学的論争だけでは、議論はすまないのだ。最初に必要なのは、今回の事故について政府と東電がきちんと責任を認め、罪をあがない、将来に向けた道を示すことだ。それなしには私たちはもう、科学や技術を信頼することができないのではないか。



たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ、54歳。