ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

「保険主義」の限界

弁護士 尾藤廣喜






 財政対策を中心とした医療保険の「改正」案が今国会で審議中です。国民健康保険の運営を市町村から都道府県に移して「標準保険料率」を都道府県が、示す▽後期高齢者医療の保険料「軽減特例」を廃止する▽入院給食費の負担金を引き上げる▽新しく「患者申し出療養制度」を作って、保険の対象とならない自己負担の医療の拡大をめざす―など軒並み患者の負担増、保険の対象範囲の縮小をめざす内容となっています。

 しかも、財務省は、さらに後期高齢者医療の窓口負担割合を2割に引き上げる案をも提案しています。

 このように1960年代から日本の社会保障の根幹を支えてきた医療保険制度は、利用者の大幅な負担増と給付内容の制限によって、大きな危機を迎えています。

 もともと、医療保険などの社会保険制度は、各保険の加入者から徴収した保険料を基盤に給付を行う制度で、国民健康保険・健康保険・共済制度など加入する制度がさまざまに分かれ、しかも、各制度の加入者に収入や年齢構成で格差がある場合には、徴収した保険料総額や必要な給付の総額に制度間格差が発生するという問題点があります。

 そのうえ、税金とは違って、保険料計算の根拠となる所得の上限は低額に設定されており、高額所得者ほど負担率が低くなるという根本的矛盾があります。

 この矛盾を解決するためには、本来保険料で財政負担する範囲をできるだけ少なくし、税金で負担する範囲(公費負担)を大きくしなければなりません。

 ところが、今回の「改革」では真逆に、後期高齢者医療に代表されるように、収入が少なく医療給付の必要が高い人々を対象とした制度を固定し、これを「保険主義」を中心に運用しようとしているのです。

 経済的弱者ほど医療の必要性が高いという医療の実態からすれば、「保険主義」の限界を自覚し、公費負担を中心とした医療に転換しなければ、市民の生命と健康を守ることはできません。



びとう・ひろき氏 1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。