ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

「お互いさま」のこころ

僧侶・歌手 柱本めぐみ




 「お互いさまだと思ってほしい」―そう言われたのは、待機児童ゼロを目指して、保育園整備に尽力された大学教授でした。

 保育園新設の際には必ず、園児さんたちの大きな声が喧(やかま)しいと、近隣住民からは迷惑施設と見なされ、建設反対の声があがるそうです。子どもさんは精いっぱいの声を出しますね。話すときも、笑うときも、歌うときも、そして泣くときも。それは元気に成長している証拠なのですが、閑静な住宅地などで、その「声」が絶え間なく聞こえてくると、「騒音」と感じる方があるのだそうです。生活に支障をきたすとして、保育園を相手に訴訟を起こした方があったとも聞きます。

 一方、働くお母さんの立場からすると、保育園が足りないことは、確実に生活に支障をきたします。そこで、その教授は、保育園が防音対策をとる代わりに、住民の方々は自らの生活環境を最優先させ過ぎないでほしいと、「お互いさま」の意識を説かれました。このことばは、保育設備の充実を願う、こころからのことばだったのです。

 このように、どちらが正しいとは結論づけられない問題は、日常生活の中にもたくさんあるでし?う。双方が自分の言い分を100パーセント通そうとしている限り、問題は解決しません。そんなとき、どちらかが、譲るとか我慢するということではなく、「お互いさま」という気持ちをもつことで、対立の心を和らげ、解決の糸口を見つけるきっかけになるのではないかと思います。

 「困ったときはお互いさま」と言いますが、それは、「今度私が困ったら助けてくださいね」ということではなくその中には、人は関わり合って生きているのだという意味があると思います。一つの社会の中で生きている者同士、見返りを求めずに相手を思う気持ちと、それをありがたく受け取って感謝する気持ち。皆が常にそういう気持ちでいれば、こころの輪が広がり、それぞれに「私」の人生があたたかく、豊かなものになるのではないでしょうか。



はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。