ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

若者が働ける福祉介護を

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介




 先日、東京でラーメン屋に入って驚いた。味に、ではない。時給一五〇〇円の求人広告が張ってあるのだ。確かにはやっていて忙しそうである。それほど景気がよくなったのか。だとしたら現政府の金融政策も悪くはない。だが、政府とラーメン屋には申し訳ないが、今後の成長が見込める産業ではない。若者が将来を託せるものではない。高時給は、人手が足りない時だけの一時的なものだ。

 反対に地方では、若者も少なくなっているが、人手が足りなくなるほどの産業すらない。だから仕事を求めて東京に一極集中化する悪循環は止まらない。さらに少子化には歯止めが効かず、解消の手段は見えないどころか、政治家たちの発言はますます子どもを産みにくくしている。人手不足の解消には移民受け入れという手があるが、日本ではまだまだ難しそうだ。

 こんなことを心配するのは、私が福祉や介護に近いところで仕事をしているからだ。これでは、福祉や介護現場の人手不足はひどくなっていくばかりだ。実際、ハタで見ていてもこの業界では若者の入れ替わりが激しい。景気がよくなったからといって、給料を上げられないのがこの業界である。不況真っただ中だった頃は、これからは介護福祉の仕事だとばかりに大学の学科や専門学校が増えたが、今はどこも定員確保が難しくなっているという。

 介護は中高年の仕事でよいという意見もあるが、若者の華やいだ活力がない介護現場など、あまり考えたくないではないか。ましてや、自分が将来そこに行くとして。ならば介護ロボットの出番だろうか。しかし、ロボットに食事やお風呂の介助をしてもらうのは、なけなしの尊厳を捨てずにできるだろうか、私たちは。

 成長産業に肩入れして経済成長を促すのも大事かもしれない。しかし、少子高齢化という構造問題は、それでは解決しない。政治と経済は人の幸せのためにあるのだとしたら、介護や福祉で安心して働くことができ、若者が人生設計できる仕組みを考えてほしい。



たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ、54歳。