ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

しもの世話

立命館大教授 津止正敏



 ウンコで場が盛り上がる─今年の3月に開催した研究会で話題になった。

 各地で男性介護者の会が盛んに開催されるようになったが、悩みや課題も尽きない。参加者が少ない、なかなか増えない。マンネリで参加者が固定化する、限られる。本当はこの場に来たくても来られない人にこそ必要なのに。でも介護現役の人には外に出る時間も余裕もない。毎回時間が足りないくらいに話が弾む集いがあるかと思えば、回を重ねるたびにジリ貧、今はもうOBばかりと嘆く会もある。悩みの根は深いのだ。

 だから、その場をいかにすれば活性化し得るか。リーダーの腕の見せ所はどこにあるか。参加者にウケる話題は何か。このようなことをテーマにしてシンポジウムを開いた。題して「ケアメン・コミュニティのマネジメント─こうすれば活きる!?男性介護者の会や集い」。各地のコミュニティ主宰者の熟練の作法・技法を学ぶために開いた。その時に出た話題の一つがウンコの話だった。

 「いま一番大変なことは母の“しもの世話”だ。それでもやるんだ。やる人いないもの」。これは数年前に発行した『男性介護者100万人へのメッセージ』に掲載された青森県の男性の手記の一文だが、彼と同じように排せつ介助の苦労を語る人は多い。聞けば苦労だけではないもう一つウンコの効能もあるらしい。ウンコで集いが盛り上がる理由のひとつがこれだ。

 オムツひとつ取り換えるのも一苦労。慣れないために、慣れたとしても相手のある事なので大変だ。毎日ウンコとの格闘だ。ウンコ塗(まみ)れになっている。ソウソウ、こんな話ここでしか話せないよ。未経験者に聞かせたらタダタダ不愉快な気分にさせるだけだもの。でもうれしいよね。便秘で数日苦しんだ後にやっと出た大量のウンコに出会った時には。よかった、よかった!とウンコを手に心底うれしくなるから不思議だね。ソウソウ、泣けるよね。

 今日もどこかでウンコ話で盛り上がっているケアメン・コミュニティがある。



つどめ・まさとし氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる−男性介護者100万人へのエール−』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言−』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」−』、『子育てサークル共同のチカラ−当事者性と地域福祉の視点から−』など。