ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

「生活困窮者自立支援」を実のあるものにするために

弁護士 尾藤 廣喜






 一昨年12月、生活保護法の改正(実質的には改悪)とともに成立した「生活困窮者自立支援法」の運用が今年4月から開始され、その実施状況が少しずつ明らかになってきています。

 この法律は、生活保護制度利用前の「生活が苦しい」という段階で、「新しいセーフティネット」を作り、これにより生活を支え、自立を支援しようという発想からできた制度です。しかし、制度の発足の原点に「生活保護費の削減」という前提があり、財政当局は、制度運用の財源を、削減した生活保護費から用意するなどと主張しており、まずそこが問題です。

 制度は、必ず実施しなければならない必須事業と実施してもしなくても良い任意事業に分かれていますが、必須事業は、生活困窮者がワンストップで相談できる自立相談支援事業と失業などにより一時的に住む家を確保できない人のために家賃を補助する住宅確保給付金の2事業にすぎません。また、任意事業には、就労に必要な訓練をする就労準備支援事業、住居のない人に対して宿泊場所や衣食の提供等を行う一時生活支援事業、家計に関する相談・貸付のあっせん等を行う家計相談事業、子どもへの学習相談支援事業などがありますが、任意事業を実施している自治体はそれぞれ30%前後にすぎません。しかも、必須事業についても、予算や実施体制によって利用できる人数が事実上制限されているほか、必須事業の主要目的である「仕事に就く」という点の実現のためには、「十分な働く場の確保」が必要ですが、これが全く不十分です。

 このように多くの問題点を抱えた制度ですが、京滋地域では、従来から熱心にこれらの事業に取り組んできた野洲市や京丹後市などの自治体もあり、その成果が広められ、積極的に取り組む自治体も増えてきています。本来の「新しいセーフティネット」の機能を発揮させるためには、財政、人員充実について、国・自治体の責任実行を強く求めていく必要があります。



びとう・ひろき氏 1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。