ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

食事が育むこころ

僧侶・歌手 柱本めぐみ




 夕刻、下校する生徒さんたちの列から、「僕とこ、今夜カレーやねん!」と弾んだ声が聞こえてきました。すると、その友達も「僕とこ、昨日カレーやった!」と、うれしそうな声。その会話を聞いた瞬間、私は、こころのこもった手料理が並び、それを囲む家族の会話や笑い声のある食卓を想像し、とてもあたたかな気持ちになりました。

 私がそのように思ったのは、家族があっても、それぞれが「自分」の都合を優先する結果、一人で食べる「孤食」、あるいは子どもだけで食べる「子食」が増えているという現実があるからです。仮にそろって食事をしても、おのおのが好きなものを食べる「個食」などという、昔はなかったことばも生まれる時代です。もちろん一人で食べておいしい食事もありますし、ゆっくり食事をする時間がない時もありますが、会話のある食事は子どものこころを育み、また、人として生きるために、なくてはならない時間だと常々思っています。

 グルメブームが起こって久しく、食べ物はどんどん豊かになってきました。いつでもどこでも「食べ物」の話題は尽きることなく、老若男女関わらず、「どこのお店がおいしい」という情報にはとても敏感です。「食」に関心が集まり、質を高め、味を極めていくことは私たちの大切な「文化」です。しかし、食文化は発達しても、生活の変化によって、こころを豊かにしてくれるはずの「食事」が、寂しくなっている気がします。

 今年は終戦から70年です。戦後はわずかな食料を、皆で分け合って食べていたと聞きます。それは、「食べ物」はなくても、その苦労をともにする「人」があったということでしょう。今、「食べ物」はあふれていますが、「人」はどうでしょう。昔から「同じ釜の飯を食べる」などということばもあるように、「食」によって繋がるこころがあるはずです。大人も子どもも忙しい毎日だからこそ、いま一度、「食べ物」に感謝し、今日の食事のあり方を見直してみてはいかがでしょうか。



はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。