ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

しなやかな異議申し立て

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介




 安全保障関連法案に反対する学生や若い人たちのデモが各地に広がっている。自分たちの生活、自分たちの将来に直結する問題であることを、若い感性が敏感に感じ取ったのだろう。従来のデモのような組織に動員されたものではなく、ひとりひとりが自然に立ち寄り、歩き、また散っていく。そこで彼ら、彼女らが発する言葉が、新しく爽やかだ。

 若い人たちは、いつも自分の大切にしている現実から語りはじめる。自分たちが今まで政治や社会に対して何も知らなかった、考えてこなかったこと、今はじめてこれは自分たちの問題だと気づいたばかりであること。こうしてデモに来るようになっても、普段は買い物やおしゃれを楽しんでいること、いまだ政治に興味のない友人たちから浮いてしまってつらいこと、それでもなぜ、私はここに来たのか。こんなことを、国会議事堂とその中にこもっている政治家たちに訴え、仲間に語りかけている。

 従来の政治運動に親しんできた人たちには、生ぬるいお遊びにうつるかもしれない。だが、若者たちがそれを訴える根拠は、殺しあいはしたくないという、その気持ちの切実さだ。このままでは自分たちが人殺しに巻き込まれるという危機感である。それを表現する言葉と行動は、こちらが正しいと相手を説得する言葉ではなく、軍隊式隊列の力で相手を組み伏せようとする行動ではない。

 年輩の私たちがなじむのに苦労するラップのコールと、行進ではなく思い思いに踊るためのリズムは、現代の若者たちの体から自然に湧いてくる律動だ。その自分たちのリズムを自分たちで発見し、自分たちが自分たちのために集まっている。誰かに言われたのではなく、自分の思いだけで自然に集まっているところが、しなやかな異議申し立ての言葉となって伝わってくる。

 彼ら、彼女らの言葉と行動は、因習と独りよがりに固まった今の政治の世界を、まっすぐに突き通す。そこに、新しい時代を開く可能性があるだろう。



たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ、54歳。